そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 暗躍②

 再び街の郊外、その廃ビルの一室。

元々薄暗かったこの部屋も、雨模様の空と日が傾き出したことでより一層光のない空間に仕上がっている。

そんな中で、赤茶色の髪の双子ーークレスとデクレは、つまらなさそうに土砂降り雨の叩きつける窓を眺めていた。

「ねーぇランペイジさぁーん。¨臆病者¨さんを始末しに行くんじゃあなーいの?」

双子の姉、クレスはとうとう辛抱ならず、呑気にくつろぎながら未だ行動を起こそうとしないランペイジに不満をぶつける。

弟のデクレも口には出さないものの、何もない部屋で待機している今の状況に飽き飽きしているようであった。

しかしながら、どういうわけなのか、当のランペイジはこの状況でもなお窓際でのんびりとしているのだ。

 「あぁ……そのつもりだったがその前にやることができた」

それどころか、楽しげに彼はニヤリとその口角を上げている。

「唐突ですね」

「勝手に変えないでよー!」

対する双子は揃って仏頂面だった。

せっかくのやる気も、突然の予定変更によって削がれてしまった。

そのせいか、双子はますますランペイジに不満を持つようになっていた。

だがランペイジはそれを歯牙にも掛けず、ニタニタとせせら笑ったまま続ける。

「ちょっといいことを思い付いてな」

「「いいこと?」」

すると、ランペイジはおもむろに部屋の奥に控えている「それ」を指差した。

B-00という名の例の機械人形だ。

「¨アイツ¨だよ。せっかく貰ったんだ、使ってみなきゃ損だってな」

ランペイジはそう言って窓から離れ、ツカツカと部屋の奥まで歩いたかと思うと、そのままそこに控えていた機械人形ーーB-00の頭を軽く叩いた。

すると、ギギギと歯車の音が鳴り、B-00が起動を始める。

『ア……アァ…………A……aaAア』

それは唸り声に似た、ノイズ混じりの音声。

ランペイジはその耳障りな音に思わず顔をしかめた。

「チッ、燃費の悪いヤツだ。すぐに魔力が枯渇しやがる」

彼は舌打ちをすると、今は用済みだと言わんばかりにB-00の体を蹴り飛ばす。

B-00はそのまま壁に打ち付けられ、ガシャンと無様な音を立てると、再び停止した。

まるでゴミと同等の扱いである。

「あーあ、もっと魔力保有量の多い人間のエサがありゃあなー」

ランペイジは蹴飛ばしたモノのことなど全く気にしないどころか、それがさも当然だと言わんばかりの振る舞いだ。

「…………やーなかんじ」 

クレスが小声で呟く。

 ランペイジに加担している身とはいえ、さすがの双子も彼の態度には難色を示すばかりだ。

だがそんなことは露知らず、ランペイジは身勝手にも双子に次の命令を下す。

「つーわけでてめぇらはエサの調達に行ってこい。10匹くらいいりゃあさすがに足りるだろ」

 「はいはーい」

投げやり気味に返事をするクレス。

デクレは返事もせずにそそくさと準備を始めている。

とはいえ、命令を受けるのは何も嫌なことばかりではない。

まず第一に、報酬が良い。雇い主のランペイジは最近どこからか多額の金を手に入れているらしく、報酬を渋る理由がないという。

第二に、仕事内容は現状困難を極めるようなモノではないこと。人を拐ったり見張りをする程度だ。双子にとって、この程度は造作もないことだった。

そして第三に、命令で外に出ている間はランペイジのようなろくでなしグラサンナルシスーツ野郎と顔を合わせなくてもよいということ。

大体半分くらいはこれが理由であった。

とすれば、命令を受けた双子が真っ先に起こす行動は一つである。

「じゃあ行こっか、デクレ」

「うん、クレス」

さっさと出発。

にこやかに手を取り合い、双子は部屋から軽やかに外に飛び出していく。

トタトタと忙しない足音。

彼らがこの廃ビルを降りるまでに、三十秒もかからなかった。

 

「なんだあいつら……嫌な顔するくせに命令の実行までがはえーのが何かムカつくな……」

静かになる室内。

部屋に残ったランペイジは、その様子を微妙な表情で見ていたのだった。

 

 

 

「あー!やっと戻ってきたッス!」
場所は再びライト達のアジト。

「あはは……ごめんね、ただいま」

ライト達が待つこと数分、部屋を出ていたフォル達がようやく戻ってきていた。
「待たせてすみません、皆さん」
フォルの後から入ってきたシャーラが遅れて頭を下げる。
「いやいやいいッスよお姫様がそんなん!」

慌ててシャーラの頭を上げさせるノイ。

まだ緊張しているのか、それとも恐れ多いのか。不良達にとって、シャーラのお姫様らしからぬ腰の低さは未だに落ち着かないようだった。

「……っていうか、二人で一体何を話してたんスか?」

ライトはそう言って訝しげにフォルとシャーラを見る。

「それは……」

「それは、ねぇ」

フォルとシャーラは顔を見合わせていた。それもどこかバツの悪そうに。

「えっなんスかこの雰囲気?え、何?」

実際のところはというと、フォルが少しだけシャーラに過去のことを打ち明けた程度なのだがーー今日出会ったばかりの不良達に言うことではない、ということで内密にしているのだ。

「ちょっと、やっぱ何かあったんじゃーー」

ライトが更に詮索しようとする。

しかしすぐさま、フォルがそれを遮るように、口の前でそっと立てた人差し指を当て、一言。
「秘密」
「え!?じゃ、じゃあシャーラさん教えてくださいッス!」
「えっ、ひ、秘密ですっ!」
シャーラも咄嗟に慣れない嘘で追求を逃れようとする。

ここはフォルの意志を尊重したようだ。
「なんなんスかもうー!!!」

ライトが叫ぶ。

妙なはぐらかされ方をしたおかげで、彼はますます二人の秘密のやり取りが気になって仕方がないようであった。

 「まァまァアニキ。今はいいじゃないッスかそんなの」

もどかしそうにもがくライトをノイがなだめる。
「そうそう、そんなことよりアタシはまだまだシャーラさんとお話したい~」

チトセもライトの意に反してマイペースだ。

「「「落ち着いたほうがいいッス」」」

それに加え、舎弟三人にすら口を揃えて言われてしまう。

「んだとお前ら揃いも揃って!!!」

ライトは憤慨した。

「特にチトセ!!お前特にシャーラさんとくっつきたがり過ぎだろ!!!!!許せねぇ!!!!!」
その上会話の機会に恵まれないあまり、とばっちりでチトセに謎の言い掛りをつけ始めるまでになってしまっていた。
「おっ、ここでやる?アニキ!」
だが、いちゃもんを付けられたチトセも何故か乗り気だ。

「ちょ、ちょっと待ってください!お二人とも喧嘩は……!」

互いにガンを飛ばしつつ、ポキポキと指を鳴らしていくライトとチトセ。

それに不穏な空気を感じ取ったシャーラが慌てて止めに入る。

が、

「おーやれやれーッス、一人だけ抜け駆けしたチトセを許すなー!」
周りの不良達ーーノイは止めないどころか、なんとむしろその流れを煽っていた。

「久々のくーでたーだー!」

「ひゅー、ひゅー!」

「やっちまえー!」

舎弟三人もまるでスポーツの試合を観戦するかのように野次を飛ばす。

「えぇ……そんな」

シャーラは訳がわからなかった。

 どうやらこれは彼らにとっては日常茶飯事らしい。

本気で喧嘩をしているわけでも、本気で怒っているわけでみない、ただの拳コミュニケーション。

言葉より、行動より、その拳で語り合う。

シャーラ、いや常人には到底理解しえない、彼らだけの不良世界の話。

はた迷惑もいいところだが。

「…………」

「…………」

 そうしてしばらく、そんなコミュニケーションからなる睨み合いが続く。

そして、

「よっしゃ来いやあああああ!」
「アタシが次の頭だあああああああ!」

とうとう開戦。

「えぇ!?えぇえ!?」

あまりに脈絡のない喧嘩の勃発に、呆気にとられてしまうシャーラ。

もはやこうなっては止めることができない。

ただ決着がつくを待つしかないのだ。
「…………騒がしくなるなぁ」

その一連の様子をたった一人、フォルはまるで他人事のように傍観していたのだった。

 

 

 

 

 夜のルクリフィアの町。

多量の雨粒がコンクリートの壁を叩きつけ、黒雲に雷が走っている。

そんな嵐の夜に 、デクレとクレスの双子は廃ビル近くの屋根の下で雨宿りをしていた。

「ねぇ、デクレ」

クレスがデクレに呼び掛ける。

「なあに、クレス」

デクレがクレスに返事をした。

「不思議なんだよね~」

「何が?」

「ほら、アイツ。ランペイジとかいうやつのこと」

クレスが思い出すのも嫌、というような顔でその名前を出した。

「実はちょっと前に、アイツのこと気に入らなかったからさ、こっそり寝首掻いて金品奪ってやろうと思ったんだけど……」

「けど?」

クレスは女の子らしからぬ物騒な話を繰り広げているのだが、デクレはそれに臆することなく平然と会話を続ける。

「なんでだろなー?できなかったんだよねーそれが」

「それはどういう意味、クレス?」

クレスは「んー」と声を洩らして顎に指を当てた。

「なんかねぇ、『攻撃しようとすると攻撃するのをやめちゃう』って感じ?」

妙なジェスチャーを交えながら、クレスはデクレにそう説明する。

「変だね、それ。もしかしてアイツの異能力?」

「そうかもー。下手に手を出せないのやだなー」

相手が異能力持ち、それもどのような能力かを知らないままに正面から戦闘を仕掛けるのは無謀だ。

それでも挑もうとするのは、余程自信のある魔術師、異能力者、あるいは身の程を知らない愚か者である。

何らかの手で不意討ちを防いだ相手とあらば尚更、双子も警戒してかからねばならない。

「あーあ!」

クレスは雨の音に掻き消されないくらいの大きな溜め息を吐いた。

彼女は唇を尖らせ、しばらく拗ねるような態度を見せていたが、ふと、急に両手を元気よく真上に伸ばして叫んだ。

「まぁいいや!この際憂さ晴らしに色んな人に八つ当たりしちゃおうよ!どうせ餌になるんだしぃ」 

クレスは、にひーっと屈託のない笑顔をデクレに向ける。

まるで自らが過激な発言をしているなど思ってもいないかのようだった。

「そうだね、クレス」

それに対し、デクレは眉一つ動かさずに頷く。

「決まりだね、デクレ。雨宿りなんてしてる場合じゃないよ!」

一気にテンションが上がるクレス。

「それにさぁ」

「それに?」

「雨って結構好きなんだよね、私」

「洗い流してくれるから?」

「行いも、その証拠も、ね」

双子は示し合わせたように同時に笑いあった。

彼らはそっと手を繋ぐとそのまま、吹き荒れる滝のような雨の中を、ロケットのように突っ切っていったのだった。

 

 

次第に夜は明け、次の朝を迎える。

 

フォルとランペイジ。別々に動いていた時が今、重なろうとしていた。