そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 暗躍①

フォル達がライト達のアジトへと向かっている一方その頃。

街の校外。
賑やかなルクリフィアの中心部とは違い、人の姿を見ることのないほどに寂れている。
明かりが点ることのない廃ビル、シャッターの開かない、かつて商店街があったであろう通りはとうの昔に寂れ、辺りに点在する標識と信号だけが、風化しても尚その役目を果たし続けていた。
町が発展していくにつれ、新しいものが古いものを淘汰していくのは世の常である。
ここは町の新たな管理体制への移行により、その存在意味を失なった建物が多く点在していた。
いずれは町の中心部同様に作り替えられてゆくであろうこの過去の町だが、今現在移り変わりの狭間に位置する時であるせいで、今尚取り残されたままの地域が点在している。
そうした場所には決まって管理体制から外れた存在――所謂裏の社会と呼ばれる世界の住民が、まるで死骸を食らうハイエナのように寄り付き、管理外のこの町に巣くっていたのだった。

そんな場所の、とある廃ビルの一室。
嫌に湿り気のある空気が壁や天井に染み付いており、床には何処の誰が棄てたかもわからないゴミや家具だったものがそこかしこに転がる。
天井に取り残された電灯が、誰の手に渡ることもなく薄暗い部屋の中心で鎮座し続ける机を照らしていた。
その机の上に一人、そして部屋の隅にまた一人と、電灯は不安定に明滅を繰り返しながら、二つの人影を照らし出している。
その内の机に腰かけている一人。
サングラスをかけたスーツの男は、暇そうにブラブラと足を遊ばせていた。
年は若い。中肉中背で、さしずめ二十代前半といった具合だ。
染めているであろうブロンドの髪、ナイフの切り傷のように細く鋭い瞳……出で立ちの荒々しさは勿論、どうやら暴力沙汰も手慣れているようにも見えた。
ランペイジ・エイデム。
この過去の町に寄生する、ゴロツキと呼ぶにはあまりに多くの人を殺し、殺人鬼と呼ぶにはあまりに殺人への執着のない、ただ弱者をいたぶることのみに快楽を求める人間の名である。
よほど暇であるのか、彼は退屈そうな顔で、部屋の隅に控えていたもう一人に言葉を投げかけた。
「あ~あ、なんだってガキなんて雇っちまったのかなァ」
なんとも軽々しい、冗談めいた口調。
ランペイジは大きくため息を吐いた。
「用心棒、なんて最初は冗談かと思ったぜ。……まぁ、後から利用価値があると思って雇ったのは俺自身だけどな」
「…………」
つらつらと語るランペイジだったが、部屋にいるもう一人から返ってくる言葉はなかった。
「……ハァ。やっぱり反応なしか」
彼は最初からわかっていました、とでも言いたげに肩を落とす。
彼が自分の横へ目をやると、そこには電灯の明滅に合わせて姿を見え隠れさせるもう一人の存在が、まるでネジの巻かれていない玩具のように微動だにせず佇んでいた。
しかしというもの、その人影は何も男の言葉を無視しているわけではない。

――それは人間ではなかった。
着ている衣服こそ特徴のない一般的なデニムのパンツに、フード付のパーカー。
フードを目深に被った姿だけなら普通の人間とそう大差はない。
だが、フードの奥に見えるその容貌は、明らかに人間のそれとはかけ離れていた。
その瞳には、人間としての輝きはなかったのである。
それは機械で構成されていた。
骸骨のような形状の顔を形成する灰色の皮膚には、電子回路のような無数のラインが浮かび上がっており、その頭部に取り付けられている半透明のカバーの中には、人間の脳とおぼしき臓器が何かの液体に浮かんでおり、時折中の液体がゴボゴボと泡立っていた。
人間と同じ体型、服装をしていながらも、その姿はまさに無機質な機械そのものだった。
ただじっと、その紅く発光する瞳をフードの下から覗かせているのみである。

ランペイジはその機械人形の姿を改めて一望すると、くくっと笑みを溢し、
「こいつが笑い話の一つも出来ねぇのはちと残念だが……¨あの人¨も太っ腹だなぁ?戦闘データを録って渡す条件でこんなヤベェモンをくれるんだからよ」
まるで自分が城を持った権力者とでも言わんばかりに、彼は悠々自適に笑った。
彼がとある人物から譲り受けたこの機械人形は、戦闘を目的とした兵器である。
訳は割愛するが、どんな偶然か、彼は何日か前に出会ったある人物から研究を手伝って欲しいと頼まれたのだ。
怪しい話ではあったが、ランペイジは自分に対して不利益がないことを確認すると、喜んでそれを引き受けたのだった。
「…………んァ?」
するとランペイジは何かに気付いたのか、笑うのを中断して部屋の扉の方へ目を向ける。
丁度その時、まるでタイミングを見計らったかのように、部屋の外からコツコツと軽く扉をノックする音が聞こえてきた。
誰かがこの廃ビルの一室へとやってきたのだ。
「おぉ、ようやく話し相手になるやつが帰って来た」
ランペイジは待ち望んでいたとでも言わんばかりに喜んだ。
同時に、彼の視線の先、風化して今にも外れそうなドアノブがカタリと下に回され、僅かに錆び付いて凹んでいる部屋のドアがゆっくりと開かれた。
「思ったよりも大分早かったじゃねーか」
部屋に入ってきたのは、少年と少女の二人。
子どもだった。
見た目は十代前半程度。背丈こそ多少の差はあれど、髪色、瞳の色、顔立ち共に非常に似通っている点に血の繋がりが現れている。
彼らはつがいの双子なのだ。
「仕事の腕には自信がありますから、僕達」
少年が言った。
「でもこれよーじんぼーの仕事じゃないよ~」
続いて少女も口を開いた。
声の調子は一定で、強弱のない気だるそうな話し方は双子で共通している。
一見普通の子どもなのではあるが、彼らの瞳に宿る闘志は、獲物を欲さんとする獣のそれに親い。
その気になればいつでも仕留めてみせる、という自信に満ちていたのだ。

そう、彼らこそがランペイジの言っていた「用心棒」なのであった。
「…………えーっと、どっちがどっちだっけ?」
ランペイジがおちょくり半分で用心棒の二人に訊くと、彼らは双子らしく揃った動きでお互いの顔を見合わせる。
そして、まず目立たないグレーのシャツを着た少年が呆れた顔で「デクレ=シェード」と名乗り、続いてもう一方の白いフリルのスカートを履いた少女が「クレス=シェード」だと名乗った。
名前を覚えられていないことが気に入らなかったのか、彼らは双方共に仏頂面でランペイジを睨んだ。
だがランペイジは薄情にも、訊いておきながら心底どうでもよさそうな顔で会話を続行した。
「へーまぁいいや、ところで俺が頼んだ通りちゃんと連れてきたか?」
「…………今持ってきます」
ランペイジの不躾な態度にデクレは内心舌打ちをするも、じっとりとした足取りでドアの方へと向かった。
彼は一旦部屋から出ると、外から何やらリボン付きの大きめの白い袋をずるずると引きずり出してくる。
大きさは人間、それも大柄な男が入るほどであり、中身が入っているのか、袋はパンパンに膨れ上がっていた。
「かわいいラッピングだね、デクレ」
そう口にしたクレスはしゃがみこみ、デクレの運んできた袋をまるで犬でも手懐けるように優しく撫でる。

しかし次の瞬間、彼女は突如立ち上がり、
「じゃっ、お寝坊さんを起こしてあげよっ!」
ほんの数秒前に優しく撫でていたことが嘘のように、なんと袋を乱暴に蹴り始めたのだった。
「いーち!にーい!さーん!よーん!」
一回、二回、三回、四回…………そこまで蹴りつけた所で、何やら袋がひとりでに蠢き出した。
「ヴッ……ヴグッ……」
不気味な唸り声を上げ、苦しそうにモゾモゾと動く袋。
クレスはそれを見て、自らの気分が高揚していくのを感じていた。
「ねぇ!ほら!ねぇ!ねぇ!ねぇってば!ほら!早く起きなよ!」
彼女は自分がスカートをはいていることも気にせず、容赦なく蹴りのスピードと強さを上げていく。
「ゲホッ、ゲホッ!グフッ……」
それに伴い、今まで芋虫のように這っていただけの袋が、今度は陸に打ち上げられた魚のように虚しく跳ねた。
それは無生物ではありえない挙動だ。
そう、いるのである。袋の中には何か、それも生きているものが。
「……コイツもう起きてるよ、クレス」
それまでクレスが袋を蹴りつけるのを冷静に傍観していたデクレが、これまた冷静に彼女の蹴りを制止した。
「ちょっと消化不良~……」
クレスはまだ物足りなそうな顔をしていたが、ふぅと息を吐くと、残念そうに袋から足を退ける。
「おうおう怖い怖い。なんだ、そいつに恨みでもあるのか?」
スーツの男がからかい半分で訊くとクレスは、「別にぃ」とはぐらかすように答える。
「イライラしてるんだよね、クレス。……さっき帽子のお兄さんに負けたから」
デクレが申し訳なさそうに声を上げるが、クレスはそれについては黙りを決め込んでいた。
「帽子の?何のことだ?」
「いえ、気にしないでください……あなたに雇われる前の話です」
それより、とデクレはランペイジの言葉を遮って話題を変える。
「アレ、どうします?起こしちゃいましたよ」
そう言ってデクレが指差したのは、先程までクレスが蹴っていた大きな袋だった。
持ってきた時とは異なり、今ではゴソゴソと気味の悪い音を立てながら部屋の入り口辺りで蠢いている。
「ヒィ……ハァッ……!な、なんだよこれ……おい誰か!助けてくれ!」
すると袋の中からなんと、人間の男の声が聞こえてきた。

――袋に入っていたのは、人間丸々一人だったのである。

袋の中の人物は、自分が今置かれている状況への恐怖からか、震える声で袋の外に助けを求めていた。
デクレはそんな彼を興味がなさそうに一瞥すると、
「初仕事は¨コレ¨でいい?ランペイジさん」
クレスと同様にして、今度はデクレが人間の入った袋を思いきり蹴り飛ばし、そのままランペイジのもとに差し出す形となった。
「上出来だ。……用心棒なんかよりこっちの仕事の方がよっぽど向いてんじゃねぇの?」
ランペイジは自分のサングラスを指で押し上げ、ニヤニヤと笑いながら言う。

「な、な、なん、何だ!?そこに誰かいるのか?!」
するとランペイジの声に反応して、袋の中の人物が吃りながらも言葉を紡いだ。
自らの状況がわからない。
何故捕らわれているか、何故身体が痛むかも不明なまま、彼は必死に脱け出そうともがく。
しかし彼の悲痛な叫びも虚しく、デクレとクレスの二人は、もう自分の仕事は済んだとでも言わんばかりに、袋の人物への無関心を貫いた。
「おい、誰か!誰か!!」
袋の人物は再び叫ぶ。
しかし状況は変わらなかった。
だが彼のもとに一人だけ、ゆっくりと近付いてくる足音があった。
ランペイジである。
「あー……そこの袋のヤツ?一回しか言わないからよぉく聞いておけよ」
薄気味悪いせせら笑いを浮かべたランペイジは、袋をじっとりと睨むように見据える。
「な、え、何だアンタ……?」
突然の聞こえてきた声に戸惑う袋の人物。
だが、この右も左もわからぬ状況下で人間の気配を感じ取れたことが嬉しいのか、彼は構わず助けを求める声を上げた。
「まぁいい早く助けてくれ!アンタすぐ近くに――――ぐあッ!」
しかし返ってきたのは腹部への強烈な痛み。
「一回しか言わねぇっつってんだろ!ウダウダ言ってねぇで黙って聞いてろ!!」
先程の痛みとは段違いの重みを持ったそれは、ランペイジの蹴りによるものだった。
彼は袋の人物の助けを請う態度など気にも留めていないどころか、袋の人物の話を聞く耳すら持っていない。
受け身を取ることもできずただ壁まで転がっていく袋。
不意の痛みから恐怖に怯える袋の人物に対し、ランペイジは静かに、そして落ち着きのある声で語りかける。
「今、ここに生きた人間の魔力を死ぬまで吸うことで動力にして動く機械人形がある。…………だがよ、こいつはまだまだ本調子になるまで動力の魔力が足りてねぇわけなんだわ」
つまりは、だ。と彼は続ける。
「こいつはもっと人間から魔力を吸収したい、わかるか?」
「機械人形……?魔力の吸収……?死……?」
痛みを堪え、袋の人物は語りかけてきた人物の忠告通り、注意深くそれを聞いていた。
当然、袋に閉ざされた身では耳から入る情報が全てだ。
語りかけてきた人物は、ここに人間から魔力を補充する機械人形があると言っていた。
それも死ぬまで魔力を吸うということである。
そして、その機械人形は魔力が足りていないため、人間から魔力を吸い取る必要があるとも言った。
とすると、その機械人形はすぐさまここで人間から魔力を吸収するということなのだろうか。
では、誰から?
この場で最も魔力を奪いやすいのは誰なのか?
袋の人物は、自分が恐ろしい結論を出そうとしてしまっていることに驚く。
しかし、今の状況からして答えは明らかであろう。
悲しいことに、この状況が全てを物語っていたのだ。
「ひ、そ、そ、それって、つまり……」
袋の人物はすぐに恐れおののいた。
だがそれは単に自らが出した恐ろしい想像によるものからだけではない。
感じ取ったのである。
語りかけてきた人物――ランペイジの醜悪な、邪悪な、劣悪な笑みを。
「あ~悪いなぁ律儀にちゃーんと聞いてもらってよ」
まるで悪魔の申し子だ。
「あ……あ……!」
そう、彼はわざと教えたのだ。
これから死ぬ人間が絶望にうちひしがれる様を見るためだけに。
無意味に足掻く、その姿を見るためだけに。
「やめろ、やめてくれ!何故俺なんだ!!代わりは他にいくらでもいるだろう!?何故俺でなければ……」
ランペイジからはこの光景がどう見えているのだろう。
クレスによって可愛らしくラッピングされた袋に閉じ込められ、外の様子を知ることもなくただただ恐怖を植え付けられて怯える人間を見るのは、さぞシュールであり滑稽なことに感じられただろうか。
あるいは、ありふれた反応しか見せないつまらない存在に見えているのだろうか。
だが、これだけは言える。

彼は――笑っていた。

「……悪いが、代わりを待ってられるようにこの人形はしつけられてねぇんだわ」
ハァ、とランペイジは小さく恍惚のため息を吐く。
この瞬間を待っていたのだ。
実に、実に、楽しみに。
他人の命運を自らの手で握る、この瞬間を。
彼は自らの甘美の一時の味を噛みしめ、そして袋の人物へ最後の言葉を送ったのだった。
「じゃあな」

「ちょっと、待――――」

その瞬間、ドスッ、と何かが刺されたような音が部屋に響く。

「あ……が……」

続いて聞こえたのは何者かの呻くような声。
それが袋の人物の発したものであることは誰が聞いても明らかであった。
袋の中身を貫いたもの。
刺さっていたのは小型の刃物だった。
しかしそれは普通の刃物ではない。
本来刃物の持ち手があるであろう部分から無機質な管のようなモノが伸びており、その管の道筋を辿っていくと、それはパーカーを被った人物――機械人形の首筋から生えていたモノであるとわかった。
しかし当の袋の人物は、その機械人形の異様な姿も、自らが腹を貫かれた姿も見ることはできない。
何も見えない袋の中で、じんわりと全身に痛みが広がっていくだけだった。

この得体の知れない声の主は何者なのか?

この痛みの原因は?

何故自分がこんな目に?

袋の人物の頭は一瞬にして疑問に覆い尽くされる。
だがそれと同時に彼は、自らに向けられた理不尽な仕打ちに対し、心の底から激しい怒りが込み上げてくるのを感じていた。
「ほんと……何なんだよ……お前ら……!」
彼は殆ど絞り出すような声で、伝わるはずもない怒りを、名前も知らぬ誘拐犯に当てる。
しかし、当のランペイジはそれを何事もなかったように受け流すどころか、キヒヒと薄気味悪く笑い、
「じゃあホラ、しっかり食えよ、『B-00』」
と無情にも淡々と命令を下した。
すると、「B-00」――そう呼ばれた機械人形は命令に反応するようにその目を紅く光らせる。
そして、B-00のうなじから伸びた刃がさらに袋の人物の内臓を抉ると、少量の血が飛び出し、袋から滲み出て無機質なグレーの床を紅く彩った。
「……!」
この時点で既に、袋の人物は自らの言葉を紡ぐことすらままならなくなる。
もはや動くことも叫ぶこともできないのだ。
「グ……」
そして次の瞬間、無様に床に這いつくばった袋の人物の身体が突如、まるでヒビでも入ったかのようにビキビキと不気味に音を響かせた。
骨が折れたわけではない。
それどころか、何かを壊した様子もない。
この刃だ。B-00の突き立てた刃が、袋の人物の身体に魔力吸収のための¨根¨を張っているのである。
「ググ……グ……」
B-00が不快な機械音を響かせ、その瞳が再度不気味に光った。
そしてそれに連動するように、突き立てた刃を介して人間の身体からB-00へ、まるで植物の根が栄養を吸い取るかのごとく、刺し口から魔力が吸収されていく。
「ウグ……ア……」
袋の内部はもはや定かではない。
呻き声が内部から洩れ、袋は小刻みに痙攣を繰り返しているだけだった。

それは数秒の間続き、そして――――とうとう動かなくなったのだった。

「死んだな」
ランペイジが確認するまでもなく言い捨てる。
すると、その僅か十秒余り。
袋の人物の死体は、まるで落としたガラス細工のようみるみるうちに身体が砕け始めた。

生体に存在する魔力は、生まれたその時から体内に存在する、いわば「核」のような役割を持ち、魔法を行使する際に大きく影響する。
だがそれを奪われたということは、その「核」がなくなってしまったということ。
つまり、芯の部分のみをなくし、外肉だけが残った状態である。
当然そんな支えを失った身体は、その形状を維持することが出来なくなり……やがて身体は「崩壊」し、跡形もなくなってしまうのだ。
勿論袋の人物も例外ではない。
ボロボロと崩れていく魔力の抜け殻は、最終的にその破片すらも残さず、空気に溶けるようにして消滅した。
そう、本来残るべき死体は、ものの数分も経たない内に血の一滴も残さず、消え失せてしまったのである。

「何度か見てもまだキモチワルイ光景~」
クレスが舌を出してうぇぇと声を上げる。
「相変わらず呆気ないですね」
対してまるで他人事のように言ってのけるデクレ。
だが彼も表情には出さなかったが、この光景に生理的嫌悪感を抱いていることが見てとれる。
しかしたった一人、そんな光景を目の当たりにしても尚平静さを保つ人物がいた。
主犯であるランペイジだ。
「……さて、エサやり完了、と」
彼はまるでそれが当然のことであるかのような調子で言ってのける。
慣れきっているのだろうか。
これには先程袋を痛め付けていた双子も白い目を向ける。
「エサ、ですか。吸いとった魔力もこの機械人形の血肉にでもなると?」
デクレが訊くと、ランペイジが頷いた。
曰く、このB-00は対魔術師用兵器として外気からの魔力干渉を防ぐ機構のため、大気中からではなく生物やモノの内部から魔力を吸い取り稼働しているという。
しかもその過程で対象のデータ、記憶等を読み取り、自らの糧とするのである。
ランペイジが言っていたエサとはもちろん魔力補給のことであるが、それとは別にデータの吸収も目的としていたのであった。
「……だがまぁ、こんな感じでB-00が魔力吸収した相手は粉々になっちまう。証拠隠滅としてなら完璧なんだろうが、一々エサを捕ってこにゃあならねぇわけだ」
ランペイジは心底面倒くさそうな顔で吐き捨てる。
「……」
すると、その言葉にデクレが何かを感じたのか、探るような口振りでランペイジに問い掛けた。
「そういえば、最近ちょくちょくこの辺りの不良達が殺害されている事件が起こっているそうですが……もしかして、あれもあなたですか?」
ここ最近になって、街の校外に住み着いた不良をはじめとした無法者らが変死体となって発見される事件が増加した。
デクレはそれを、ランペイジの仕業なのではと仮定してみたのだが……
「あァ?……殺したら死体も残らねぇのに誰が殺害されたなんて判断できんだよ」
呆れ顔で否定するランペイジ
どうやら違ったのだろうか。
しかしデクレがそう思っていたのも束の間、ランペイジは直ぐ様に口元を緩め、
「まぁ……あるとすれば、俺個人の趣味でやってたりするかもな」
「…………そうですか」
デクレは無愛想な受け答えをして引き下がる。
すると今度は、それと交代するようにクレスの方が前へと出てくる。
「はいはーい、私も質問~!ランペイジさんってこんな危ない機械人形さんを使って一体何が目的なの~っ!?」
クレスは元気に声を張り上げ、B-00という名の戦闘兵器の用途を探る。
最もな疑問だ。問題はこの危険な存在を、ランペイジはどう運用するつもりなのだろうか。
「……そうだな、色々試してぇこともあるが……まず手始めに逃げた¨臆病者¨の始末でもするかな」
「臆病者?なぁにそれー」
クレスが怪訝そうに訊く。
「なに、昔いたんだよ。オトモダチを見捨てて一人逃げ出した臆病者がな」
含みのある言い方でランペイジは語り、再び口元を緩ませた。
どうやら次なる標的も決定済みらしい。
それどころか既に、どう獲物を追い詰め、どう獲物をいたぶるかについてでも考えているのだろう。
その表情が、心なしか楽しそうに見えた。

しばらく楽しげに考えを巡らせていたランペイジだったが、不意に双子の方に視線を落とす。
「そういえば、そういうお前らの目的はどうなんだよ?」
訊かれっぱなしは不公平だと思ったのか、ランペイジは今度は自分から双子へ質問を投げ掛ける。
「僕達の目的、ですか?」
「私達の目的?」
「……当たり前だ。普通のガキがこんな仕事で小遣い稼ぎするわけねぇだろうに」
揃った動きでランペイジを見据えるクレスとデクレの二人。
すると何を思ったのか、お互い目配せで合図のようなものをとると、彼ら双子は交互に口を開くのだった。

「……僕達の目的はひとつですよ」
デクレが言う。
「それを手にする為なら、どんな手段でも構わない」
クレスが言った。

部屋の中が一度、静寂に包まれる。
風化した壁の隙間から入り込んだ風がさらりと頬を撫で、部屋の内部で溶けてなくなっていく。
余計な雑音はなく、時の流れすら塞き止められているような静かな部屋。
双子はそんな静寂の中、ゆっくりと、声を揃えてその名を口にした。



「『アムリタ』を、ね」



彼らを用心棒たらしめ、彼らを裏世界の人間たらしめている目的。
それが彼らの言う¨アムリタ¨。

「…………ふぅん」
ランペイジの目には、彼らのそんな目的を語る決意めいた表情が、やけに印象的に映っていたのだった。