そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 交差④

「そういやフォルさん達って、これからどこへ行くとか予定あるんスか?」
綺麗に自分の料理を平らげ、空になった皿が下げられていく様子を横目にしながら、ライトは何気ない素振りでフォルに尋ねる。

あれからフォル達五人は、会食の合間に他愛のない世間話に花を咲かせていた。
互いの面白エピソード、武勇伝、苦労話等――そういった各々が話したいことを好きなように持ち寄り、そして好きなだけ話し尽くす。
そんなことに小一時間。
彼らはすっかり昼食を食べ尽くし、そして今に至る。

「特に決めてないよ、色々見て回るつもり」
それに対し、飛んできたボールを投げ返すかのように、フォルがゆったりと背もたれに背を預けながら答える。
「あ、じゃあ」
すると、ライトの脳裏に一つの考えが浮かんだ。
彼はすかさずそれを、さも前から考えていたかのように口に出してみる。
「せっかくなんで、オレらのアジト見ていかないッスか?」
「アジト?」
彼の唐突な提案に、フォルは若干顔をしかめながら聞き返す。
「アタシらが今根城にしてる使われなくなった廃ビルがあるんスよ」
ライトが口を開く間もなく、彼の隣に座っていたチトセが答えていた。
さらにノイも続いて、
「ケッコー快適ッスよォ色々揃ってて」
と、ついでの宣伝をするのだった。
「でもなんで突然?」
「なんで、って……別に深い意味はねぇッスけど」
釈然としない様子のフォルに対し、ライトは頬を指で掻きながら、困っているような顔を浮かべていた。
彼としては、本当になんてことなく言ったことなのだから。
「でもまぁ、カンコー案内なんていうもんするよりはウチに呼んだほうが楽だし、早いッスからね」
そう話したライトは、どかっと椅子の背もたれに背中を預けながら、いたずらっぽく笑う。
「ふーん……」
ぞんざいな受け答えをするフォルであったが、疑念自体は払拭されたのか、今までの訝しげな表情は見せなくなっていた。
「んで、どうするッスか?」
ライトが改めて訊くと、フォルは腕を組んで数秒考えるような動作をとる。
そしてうーんと唸るように息を吐き、
「俺はどっちでもいいや……シャーラちゃんはどうしたい?」
と、なんと彼は無責任にも彼の傍らに座っていたシャーラに決定権を譲与したのだった。
彼女は「わたしですか?」と自分を指差した後で、
「是非とも、お邪魔させていただきたいです!」
と、意外にも急に振られた話題に戸惑う素振りも見せず、二つ返事でライトの提案を呑む。
「迷いがないね」
「あはは……実は¨アジト¨というものに興味がありまして……」
照れを隠すように、自分の毛先を玩びながら笑うシャーラ。
いかんせん彼女は「アジト」や「秘密基地」といったワードに魅せられるタイプであるらしく、既にその単語が出た時点で彼女の解答は決まっていたのであった。
箱入り娘の割に、なかなかどうしてアウトドアな思考を持っているんだな、とフォルは半分驚きを内包した目をシャーラに向けていた。
とはいえ、むしろ箱入りであったからこそ、こういったモノに心惹かれるのかもしれないが。
「んじゃ、決まりッスね!」
ライトもライトで、まだまだ旅の話が聞ける、と喜びを頬に浮かべる。
彼は、同じく喜びを噛み締めていたチトセとノイに合わせて、フォル達から死角になるところで小さくガッツポーズをきめるのだった。



料理ハウスを後にしたフォル達は再び、無機質なビルの建ち並ぶ町へと繰り出していた。
溢れんばかりにひしめき合う人の波を、彼らは水をかくように進んでいく。
「ひゃ~!中心部に行くと更に人がいっぱいですね」
そんな中、慣れない人混みに身を投じ、四苦八苦していたのはシャーラだ。
道行く人々がまるで一つの荒波のように流れてゆく光景に、彼女は圧倒されっぱなしなのであった。
町の入り口でさえ人が溢れていたにも関わらず、さらに中心部へ向かうとなると人の数は尋常ではない程に膨れ上がる。
そうなると歩道を歩くだけでも一苦労だ。
おそらく人混みに慣れているであろうライト達、そして持ち前の動体視力で押し寄せる人の波を避け進んでいくフォル。
そんな彼らとは違い、ただでさえ外を出歩くことに慣れていないシャーラにとって、この空間はかなり酷であった。
彼女はなるべくフォル達と離れないように、そしてなるべく人とはぶつからないよう細心の注意を払いながら進んでいく。
「もー少しでアジトッスよ」
「は、はい……!」
しかしそうは言っても、次第にフォル達とシャーラの距離は、何もせずとも徐々に広がっていってしまう。
シャーラはその度、僅かに歩みを速めては距離を埋め、また離れたら同様にして距離を埋める、といったことを繰り返す羽目になっていたのだった。

だがそれも、いつまで続くかはわからない。
「ちょ、ちょっと待ってくださ――――きゃっ!?」
何度かそれを繰り返す内、シャーラは慌てて距離を詰めようと思いきって歩みを速めた結果、とうとう人混みの中の誰かとぶつかってしまう。
その反動で彼女の足は支えを失い、今にも顔面から一直線に倒れんとしていた。
(……倒れる……っ!!)
覚悟を決めた彼女が目を瞑ったその時、不意に誰かの手が彼女の腕を掴み、運良く転倒を回避する。
「!?」
「……大丈夫か」
そしてそれに伴い、すぐ近くから誰かから声が掛かる。
「えっ」
シャーラが驚いて声のした方向へ振り向く。

声の主は、見た目十六、七ほどの中性的な少女だった。
色の薄いブロンドのショートカットの髪に、やけに色素の薄い不健康そうな肌。
胸は薄く、一瞬男性に見間違えるほどであったが、その落ち着いた声と長く生え整った睫毛はまさしく女性のそれだ。
恐ろしいほどに整った容姿でありながら、生気を感じさせないその様は、まるで人形が何処より操られ動いているかのように感じられた。
シャーラも珍しい銀髪を持つが故に、ただでさえこういった人混みでは浮いてしまいがちなのだが、それと同様にその少女の容姿もまた、この人混みの中では異質だった。
「?どうかしたのか?」
「…………あっ!い、いえ、助けてくださってありがとうございます。ごめんなさい、その、ぶつかったりして……」
そのあまりにも非現実的な姿に思わず息を呑んだシャーラだったが、それによって一瞬呆けた顔を見せたことが奇妙に思われたのか、謎の少女は氷のように冷い視線をシャーラへと向けていた。

「――お前は」
すると突然、少女はシャーラに対して何かを探るような目を向ける。
「は、はい……?」
シャーラはわけもわからず、ただ少女の顔をじっと見つめている。
少女の口数や表情は乏しかったが、声の微妙な調子の違いから、彼女の感情の微弱な起伏が感じ取れるような気がした。
少女もまたシャーラを見据え、そこで落ち着いた、それでいて芯の通ったような口調で囁きかけるように言う。
「お前は、過去の¨ボク¨について何か知っているか」
奇妙な質問だった。
自らの事を¨ボク¨と称したこの少女は、血のように紅い瞳でシャーラを真っ直ぐに捉え、そして静かに答えを待つのだ。
「え、えっと」
当然シャーラは困惑した。
無理もないだろう、初めて出会ったばかりの人間に「自分の過去のことを知っているか」等と訊かれれば、誰しもそういった心境になるはずだ。
彼女は勿論少女について何かを知っているわけでもなく、何か言わねばと動かした唇ですら、言葉を紡ぐには至らなかった。
するとそれを見た少女は、シャーラから得られる情報はないと判断したようで、
「知らないならいい」
と表情を変えず吐き捨てるように残し、彼女はそのままシャーラに有無も言わせないままに立ち去っていってしまうのだった。

「…………」
呆然と、シャーラは少女の去っていった方を見ながら立ち尽くす。
少女の淡白で非生物的な態度に圧倒されてしまったのもそうであるが、それだけではない。
何故だかシャーラには、その名前も知らない初対面の少女を、全くの無関係な他人だとは思えなかったのだった。

――気になる。
好奇心か、はたまたお世話焼きなのか。
そんなふと浮かび上がった思いに諭され、ついにシャーラはフォル達のことも忘れてあの少女を追いかけようとしていた。
「あの、やっぱり待って――――」

「……何やってんの、シャーラちゃん」

だが追いかけようとした矢先、今度は少女とは違う別の人物に呼び止められる。
「えっ、あっ、フォル君!?」
シャーラがふと振り向くと、そこには怪訝な表情のフォルが、彼女を不審そうに見つめている姿があった。
その後方からは遅れて、ライト、ノイ、チトセの三人もやってきている。
「後ろを見たらいなくなってたもんだからビビったッスよ……」
一番最後にやってきたライトが、顔に冷や汗を垂らしながら言った。
それも当然であろう、彼らは料理ハウスでシャーラが王族だと知ってしまったがために、無意識的に必要以上の注意を払い、そしてシャーラ本人以上にテンパってしまっていたのだから。
現にノイとチトセを見ると、各々が目をキョロキョロ泳がせたり、わざとらしくそっぽを向いたりと、明らかな動揺を見せていた。
加えて彼らは平静を装うとぎこちない笑いをするものだから、なおのこと挙動不審なのである。
だがそれは無理もないだろう。もし自分らが王族である人間を連れている道中、突然その人物が姿を消したとあれば一大事である。
フォル達の間でも相当な焦りを生んだのは言うまでもない。

「実は今しがた人とぶつかってしまいまして……怪我とかは大丈夫なのですが」
シャーラは今までの経緯を話しながらも、何か言いづらそうに含みのあるような言い方をする。
「どうかしたの?」
すかさずフォルが訊くと、彼女はふとバツの悪そうな顔で、
「いえその、できれば少しだけ、わたしも着いていけるよう、歩くスピードを落としていただけると嬉しいのですが……」
シャーラは身体がこそばゆくなるような思いに駆られながらも、恥ずかしさをまぎらわすように小さく笑う。
「なんだ、遠慮せず言ってくれればいいのに」
フォルは安堵したように肩を開いた。
「じゃあ今度はもう少しゆっくり行こう、いいよね?」
彼はすぐ後ろにいたライト達に、確認するような物言いで言葉を投げる。
「おうッス」
不良三人も特に異論はないようだった。
「お手数かけます……」
しかしながら、依然としてシャーラの顔は晴れない。
皆に気を遣わせてしまっていることに、なんとなく心苦しく思うのである。
早いところ外の世界に順応できるようになりたいと、シャーラは切に思うのだった。

「…………」
ふと、シャーラはあの少女のことが頭を過り、何の気なしに少女が去っていった方向へ振り返る。
既にあの色素の薄い風変わりな少女の姿は、人混みによって掻き消されたように見えなくなっていた。
(それにしても、あの子は一体……)
別々の線と線が交わり、そしてまた互いに離れていく。
そんな偶然のすれ違いであったにも関わらず、シャーラはあの謎の少女に対し、何か他の人間とは違うシンパシーのようなものを感じていた。
まだそれは靄がかかったように朧気なものであったが、また出会うことがあればきっとその正体もわかるはずだ。
彼女はそんなことを思いながら、再び歩き出したフォル達の後を、今度は見失わないようにとしっかり追って歩いてゆく。

五人の影がやがて、荒波のような雑踏の中に消えていった。