そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 交差③

注文からわずか一分足らず。
相変わらずノイとチトセがガンを飛ばし合っているのを気にも留めず、ゴスロリの女性はドリンクを乗せたお盆を持ってきていた。
「お待たせしました~!ホットミルク、リンゴジュース、コーラになります~」
彼女はテーブルに着くと、慣れた様子でそれぞれ注文した人間の前へとドリンクを置いていく。
「どうも」
要領よく飲み物を受け取るフォル達。
ライトはすぐさま、受け取って間もないコーラを一気に喉元へ流し込んでいた。
小さく「しゅわぁぁ」と小気味の良い音を立てる黒色の液体。その炭酸と甘さが喉を駆け抜け、小さな電流が全身に走り抜けていく。
ライトはぷはーと幸せな息をつくと、満足そうに空になったコップをテーブルに戻した。
「素敵な飲みっぷりですね。ではわたしも……あちっ!」
シャーラも同様に一気飲みを試みようとしたが、さすがにホットミルクでは無謀だったようだ。
彼女は舌を火傷しかけながら、湯気の立ち上るミルクにふーふーと息を吹きかけて冷ましながら、少しずつ口に含んでいく。
「――は!これはっ!」
感じるのは、ミルクのふくよかでコクの深い甘味と、口に広がる優しい香り。
温かで上品な味わいに、シャーラは思わず恍惚の表情を浮かべた。
「美味しいですね、もうこれだけで満足してしまいそうです……!」
「へぇ、じゃあ料理は注文しなくていいんだね?」
たった一杯の飲み物だけで満ち足りてしまっているシャーラに、フォルが少しだけ意地悪な物言いでからかった。
「い、いえいえ!やっぱり料理も注文します!」
シャーラは慌ただしい様子で、テーブルに備えてあったお品書きを手元に引き寄せ、パラパラとページを捲りながら、お品書きに載せられている料理の写真を流れるように見ていく。
「すいません、ではわたしはこれとこれを……!」
どうやら彼女はすぐに目を引くような料理を見つけられたらしく、注文をとるために待機していたゴスロリの女性に対し僅かに鼻息を荒げながら、意気揚々に料理の注文をするのだった。
承りました~。とゴスロリの女性が厨房に戻っていくまでの一連のやり取りを、フォルは自分のドリンクを口に含みながら見守っている。

「…………」
それに対し、そんな彼らを訝しげに見つめていたのはライトだった。
たとえ旅人といえども、言ってしまえばそれはただの他所の人間である。
素行は勿論、その他所の人間同士での会話、やり取りといったものが気になってしまうのは、やはりこのルクリフィアの町が自分の地元であるからか。
あるいは自分が、そういった冒険譚に憧れている、ただの好奇心旺盛な子どもであったからであろうか。
ライトはそんな思いを巡らせながら、背中を椅子に預け、探るようにフォルとシャーラのやり取りを傍観していたのだった。

ライトから見たシャーラの第一印象は、「裏表のない素直で優しい性格の女性」である。
その美しい容姿はもちろんのこと、彼女の優しげな笑顔には人を和ませるような慈愛と人の良さが溢れている。
それは根拠のない想像ではなく、彼女の佇まいやほんの僅かな仕草によって現れる、彼女本来の性質から感じられているものだ。
真に純粋な人間は、ほんの僅かな行動でさえもその純粋さが伝わってくるのだと、ライトは改めて知ったのだった。

しかし対するフォルの印象としては、純粋無垢なシャーラとは違い、「とにかく掴み所のない謎多き男性」のように見えた。
今現在もフォルは嬉しいことがあったわけでもないのに、何故かうっすらと笑みを浮かべている。
確かに、もし自分の傍にシャーラのような美人がいたらと思うと、思わずニヤついてしまうかもという可能性は拭いきれない。とライトは少し外れた感想を持つ。
だがこのライトですら、フォルのあの笑顔がシャーラに現を抜かしているからではないとすぐに理解した。
そうなってくると、尚のことフォルの不気味さが増してくる。

ライトにとって、この対称的な二人が旅路を共にしていることは非常に奇妙に思えた。
しかしその反面、この二人には何かしら通ずるものがあったのだろうと思うと、何故だかとても微笑ましく思えてくるのだった。


シャーラが注文した料理がやってくるまで、少しの間ができていた。
「ていうかそもそも、二人が旅に出たキッカケとかあるんスか?」
ライトは、そんな時を見計らってフォル達に気になったことを訊ねる。
フォルとシャーラは突然の質問に戸惑い、思わずお互い顔を見合わせていた。
「きっかけ、ですか」
すると、真っ先に答えたのはシャーラだった。
「わたしは……そうですね、ずっと外の世界への強い憧れがあったからでしょうか」
彼女は、ちょっと子供っぽかったですかね、と照れ臭そうに笑いながら「フォル君はどうだったんですか?」と誤魔化し半分でフォルに話を振る。
実際、彼女自身もフォルが旅に出たキッカケは気になっていたようで、フォルを見つめるその瞳には爛々と星が輝いているように見えた。
同じくライトも興味津々といった熱烈な視線をフォルに浴びせる。
「えぇ……」
二人の熱い視線を浴びせられたフォルは、少しだけ困ったようなリアクションをとる。
が、すぐに観念したののだろうか
か、彼は渋々とその口を開く。
「……期待してもらって悪いけど、キッカケなら俺は知り合いに飛空艇と資金をもらったからってだけだよ」
しかし、意外にも語られた内容は酷く単純。
「へ?」
「え?」
彼のあまりにもあっさりとした理由に、ライトとシャーラの二人は互いに間の抜けた声を発したっきり、ぽかんと口を開けたままフリーズしてしまう。
「そんな感動的な動機を求めちゃダメだよ、不良君」
子どものような笑顔を浮かべたフォルは、質問を浴びせたライトに対し、半ば茶化すように言い捨てる。
だが彼の笑顔には、無邪気さ、というよりもえもいわれぬ怪しさがどことなく漂う。
何か裏がありそうな笑顔が、かえって怪しさを助長させていたのだった。

「――でも、フォル君!」
そんな彼の様子を見ていたシャーラは突然、普段のにこやかな表情から一変、熱く燃えたぎる炎のような熱意の籠った表情へと切り替わる。
「感動的な動機がないのなら、これからわたし達で感動的な旅にすればいいってことですよね!!」
グッと精一杯の力で拳を握り締め、自らの熱い想いを語るシャーラ。
変に力みすぎたせいで、握ったそばから拳がプルプルと震えていた。
「いつになくテンションが高いねシャーラちゃん……」
「な、なんつーか……熱いッスね……」
しかしフォルは悲しくもそれをするりと受け流す。
それどころか、ライトですら困ったような表情でシャーラを見ている。
「あ、あれ?」
どうやらシャーラの熱意は見事に空回りしてしまったようである。
「おほん!ごめんなさい、少々先走ってしまいました……」
わざとらしく咳払いをして場を仕切り直すシャーラ。
「ただ、その……世間も知らない王族の端くれではありますが、わたしも一人の友人として、フォル君の力になりたいんです」
いつもの穏和な顔つきに戻った彼女は、優しく包み込むような声でそう言うと、そっとフォルの手に自らの手を触れさせた。
その指先の体温と、全てを見透かすような瞳の輝きが、フォルを真っ直ぐに捉える。
「だから、わたしをどうか¨信じて¨いただけませんか?」
「っ!」
シャーラ見つめられた瞬間、フォルはその深く青い瞳に思わず吸い込まれそうになった。
全てを見透かしてしまいそうな二つのサファイア色の輝石に、彼は思わず目を逸らしてしまう。

――信じて。
なんてことのない、ただの何気ない一言であるというのに、何かが、彼の内に残留する何かが、その一言を無意識に拒絶していた。
「……そう、それはありがたいね」
フォルは無関心を装いながら、自分の帽子の鍔を下げる。
自らの表情、そしてなにより自らを見つめるシャーラのあの純粋な瞳を遮ってしまうために。

だが、その状態も長らくは続かなかった。
「あり?『王族』って何の話ッスか?」
それはライトだった。
フォルがシャーラから目を背けて数秒、¨王族¨という聞き捨てならないワードが会話に出ていたことで、彼は思わずフォル達の会話の間に割り込んでしまったのだった。
しかしこれはフォルにとっては都合のいい展開だ。
やんわりと添えられたシャーラの手を振りほどきながら、彼は軽く手で頬の冷や汗を拭う。
「だってさ、シャーラちゃん」
まるで何事もなかったように、彼は帽子の鍔を戻し、あっけらかんとした様子でシャーラに視線を送っていた。
「あはは……実はわたし、ここからちょっと離れた所にある国の王家の者でして」
控え目に笑いながら、彼女はあっさりと自分が王族だということを明かす。
「うえぇぇぇぇマジッスか!!!??」
目玉が飛び出る程のやたらオーバーなリアクションをとりながら、ライトはまじまじとシャーラを見つめた。
しかし当の彼女は超然と、何故そんな反応をするのかというような顔でライトを見つめ返す。
シャーラは割と重大な事を言っているわけなのだが、どうにもその無防備さが拭えない。
フォルは先日の魔法の国での一件や店前でのデクレクレスら双子の件で、シャーラのやたら積極的で誰にでもガードが甘い点は重々承知している。
遅かれ早かれ、シャーラが自分の身の上を明かしてしまうこともフォルの想定内であったため、彼自身は半ば諦めに近い感情を抱いていたのだが、相席した可憐な女性からいきなり「自分が王族だ」などと重大なことを告げられたライトにとって、その衝撃は計り知れないだろう。
現に彼はその目を大きく見開いたまま、氷ったように動きを止めていた。

「――え!?シャーラさんって王族なんスか!!?」
「あ、ようやくこっちも反応したね」
すると、今に至るまでまでずっと取っ組み合いを繰り広げて火花を散らしていたはずのノイとチトセも、とうとう喧嘩を中断させてシャーラを凝視する。
衝撃の事実に目を白黒させているノイと、キョドりながらわたわたと手を動かして落ち着きのないチトセ。
普通の人間としては正常な反応の範疇ではあるが、その慌てっぷりはどちらも非常に滑稽だった。

「……ってことは何、城で暮らしてたりしたの?」
「はい!」
驚きを隠せないチトセの問いに、シャーラが微笑み混じりに答える。
「召使いとかそういう人もいたり?」
「はい!!」
「お、おおお金のプールとか、そういうの入ったり?」
「……は、はい?」
段々と混乱していったのか、質問が徐々に滅茶苦茶になっていくチトセ。
もはや彼女自身でも何を言っているのかわかっていないようであり、これにはさすがのシャーラも困惑を見せていた。
フォルもまた深いため息をつきながら、一旦落ち着いて席に着こう、と場を鎮めにかかる。
「ほら、二人とも深呼吸しよう」
「すー……はー……」
ノイとチトセの二人は呼吸を整えながら、そのままゆっくりとそれぞれの椅子に腰掛ける。
するとようやく落ち着いてきたのか、二人はセルフサービスの冷水を飲むことで体の火照りを冷まし、冷静さを取り戻すのだった。

「しかし王族かァ~……なんていうか、マジにそんな大物と会うことになるとはこれっぽっちも思わなかったッス」
ノイはコップに付いた水滴が滴り落ちる様を何気なく眺めながら、これまた何気ない口調で言った。
「いいにおいしそう」
チトセもシャーラを上から下まで舐めるように見ながら、ぼそりと思わず呟く。
「いいにおいするよ」
彼女の戯言に、フォルは笑い混じりの声で律儀に答える。
「おぉ、やっぱり!」
「み、皆さん、は、恥ずかしいのでやめてください……!」
しかしその傍ら、シャーラはあまりにも平静に淡々と答えるフォルや、ほへーと息を洩らしながら自分を見つめるライト、ノイ、チトセの三人を前に、耳元まで赤く染め羞恥の表情を見せてしまうのだった。

「――あらあら、そんな簡単に色々教えちゃっていいんですか~?」
するとそこに、先程フォル達が注文した料理を携えたゴスロリの女性が、茶化すような物言いで現れる。
早いことに、どうやらもう料理ができたらしい。
「あれれ……もしかしていけませんでしたか?」
シャーラが不安気に首を傾げるのを横目に、ゴスロリの女性は料理をテーブルの上に丁寧に並べながら、いえいえと僅かに微笑む。
「正直なのはいいことなのですが~……そういった大事なことはやはりあまり話すべきではないと思います~」
特にここのような大きな町では、と付け足しながら、彼女はシャーラに優しく諭した。
「そう言われるとそうですね……少々迂闊でした」
うっかり口を滑らせてしまったことも原因であるが、それと同じくしてシャーラ自身の警戒の至らなさにあったとも言える。
どちらにせよ、僅かながら彼女自身に落ち度があったのは間違いない。
そんなわけで、シャーラは思わず肩を竦めてしまうのだった。

そのうちに、ゴスロリの女性の機械的で手慣れた動きによって、テーブルにみるみるうちに料理が整列されていく。
一分もしないうちに、全ての料理がテーブルの上に並べられた。
一仕事を終えたゴスロリの女性は、シャーラに言ったことを改めて言い直す。
「シャーラさんのような純粋過ぎる方は心配なので一応言っておきますと、ここまで町が広くて人口が多いと、必ずしも良い人間ばかりではないということです~」
ゴスロリの女性はさらにシャーラに詰め寄りながら言う。
「もし悪い人に王族だと明かしてしまった場合、下手すると犯罪に巻き込まれるかもしれないので、絶対、絶対気を付けてください~!」
人指し指を突き立て、ずん、ずんと迫るような勢いで捲し立てるゴスロリの女性。
口調は優しいが、目は笑っていない。
先の話で「昔は暴れていた」と彼女は語っていたが、それも納得で、シャーラに詰め寄る彼女の表情にはえもいわれぬ威圧感があった。
そのせいか、若干引いた様子でコクコクと頷いてしまうシャーラ。
見ようによっては、田舎から上京してきた純粋無垢な少女から、カツアゲしようと目論むゴスロリ服のヤンキーの図にも見えなくもない。

「まーでも、下手に変な連中に関わらなければいいんスよ」
そんなやり取りを見ていたライトは、強ばっているシャーラに気を遣ってか、ゴスロリの女性の言った言葉をわかりやすく噛み砕いて言う。
「あら、それだけで済んだらいいですね~?」
しかしゴスロリの女性はというと、それでは甘いと言わんばかりに邪悪な笑みを浮かべ、
「もしかしたら、今も誰かが旅人さん達を狙っているかもしれませんよ~?」
今度は一気に、ずいっと自らの顔をシャーラの目の前に近付け、まるで怪談でも語るかのようなおどろおどろしい口調で話す。
ゴスロリの女性の明らかな悪ノリであった。
「ひっ、そ、そんなっ」
そんな彼女の芝居ぶった動きに、シャーラは肩をびくつかせ、指先をふるふると小刻みに震えさせながら、思わず傍にいたフォルの服の裾を掴む。
「怖がらせてどうすんだよ!」
明らかに遊び始めているゴスロリの女性に、ライトがバッシングを浴びせる。
「……とはいっても、シャーラちゃんはいざとなったらそういうのは自分の魔法で対処しなきゃね」
すると、傍観役に徹していたフォルがようやく口を開いた。
彼は、シャーラが首にかけている魔具を指先で軽くつつきながら、ケラケラと笑ってみせる。
「だ、だめですよ!人に向けて魔法を放つなんて」
「眠らせるくらいだったら誰も傷付かないよ」
「それは、そうですけど……」
口篭ってしまうシャーラ。
だが実際、彼女がその気になりさえすれば、大抵の人間など赤子の手を捻るように退けることができるであろう。
フォルがシャーラの魔法を見たのは一度きり、ほんの末端部分でしかなかった。
だがそれでも、長らく魔法を用いる機会すらなかった彼女が、手探りながらもいとも容易く魔法を使ってみせたのだ。
彼女の内に眠る「魔女の力」はそれ程に未知数の可能性を秘めている。

しかしそれ故に、何が起きるかは全く予想ができない。
もし何かがあったとき、彼女の魔法は――――

フォルが魔女の力を危惧する理由はそこだった。
いくら彼が使用に否定的なドラゴニュートの力を用いたとて、一人では限界がある。
いずれはシャーラ自身で何とかしなければならない時も来てしまうのだ。
しかし、
「ただ今のうちなら、この人達をアテにするのも悪くないかもね」
フォルは口に微笑を浮かべながら、ライト達三人、そしてゴスロリの女性に視線を向ける。
「えぇ、ライト君達はいい子ですし信じちゃってかまいません~!」
私が保証しますよ、と太鼓判を押すゴスロリの女性。
彼女は今しがたシャーラを怖がらせてしまったことを申し訳なく思っていたのだろうか、半分シャーラを安心させるように、彼女はフォルに対して強い肯定を示していた。
「……!はい、もちろん信じますよ!」
先程の不安が吹き飛んだかのように、露骨に嬉しそうな反応を見せるシャーラ。
心配される節は残っているものの、どうやら新たな友人との出会いに希望を見いだせたようである。
「じゃあ同じく、頼りにさせてもらおうかな」
フォルもまた余裕綽々とした顔で、ライト達の反応を伺うかのように言った。
残念ながら、彼はまだライト達を信用するには至っていなかったが、ゴスロリの女性の言う通り、見たところ彼らに関して特別不審な点が見受けられなかったのも事実だ。

「ま、何も起こらないといいけどね」
しばらくは様子見してもいいだろうと、及第点としてフォルはシャーラの¨信じる¨という言葉に賛意を表したのだった。