そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 プロローグ

とある町の一角。
町、といっても建物は所々が風化し、標識は折れ曲がって的外れな方向を示す。信号はただ黒い丸が三つ並んだだけのオブジェへと変貌を遂げ、辺りには誰が捨てたかわからないようなゴミが散乱する、いわゆる廃墟と呼ばれるような場所である。
そこに十代くらいの子供の集団が十数名ほど、二つの軍勢に分かれるように対峙していた。
周囲に大人の気配はない。それどころか、人間の気配ですら感じられない。
――彼らは不良だった。
生きる場所を失い、ただ今日だけを生き抜くために這いつくばる野良犬同然の存在であった。
「誰に喧嘩売ってると思ってんだテメェら!ここがオレサマの縄張りだとわかって来てんなら大した度胸だぜ!」
ドスの利いた声で、一人の少年が怒鳴る。
ガッチリとした体つきの、耳にピアスを付けた十代後半の少年だった。
「お前らが縄張りなんか張ってるせいで他の奴が迷惑してんだよ!とっとと出てけ!!」
対するは、十代半ばのニット帽を被った少年だった。
身長は160もない小柄な少年であったが、雷のように鋭く尖った金髪の下からは、さながら猛犬の如く鋭い眼をぎらつかせていた。
ピアスの少年とニット帽の少年。
この二人がぶつかったところで、彼らの体格差、年齢差を見れば結果は歴然だろう。
例えるなら大型犬と小型犬の喧嘩というべきか。
当然ピアスの少年は、自分が馬鹿にされているのだろうと怒りを露にする。
「ケッ、チビが粋がってんじゃねぇや!」
おもむろに、彼は近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げる。
それを合図に、背後に控えていた手下とおぼしき不良達と共に、一気にニット帽の少年らの集団へと襲いかかった。
砂利を蹴り飛ばす無数の足音と不良達の怒号が、一斉に敵勢力へと突進していく。
もし、誰かがこの状況を目撃していたとするならば、間違いなく不良同士の抗争が勃発すると予想したであろう。
だが、ニット帽側の少年達はそれを迎え撃つどころか、ただ動かずに平然としているのみだった。

――リーダー格であるニット帽の少年を除いて。

彼はただ一人、指をポキポキと鳴らして先頭準備に入っていた。
不審に思ったピアスの少年は一瞬攻撃を躊躇う。
「ッ、ざけんなァ!」
しかし、それを挑発か何かだと感じ取ったのか、すぐさま持っていた鉄パイプを振り下ろした。
鉄パイプは不格好な軌道を描いてニット帽の少年目掛けて降り掛かる。
至近距離から放たれたそれは、もはや避けようとしたところで避けられるものではない。
そのままニット帽の少年の脳天をかち割ってしまうかに思われた。
しかし、
「ゴブッ!?」
刹那、鉄パイプはものすごい力によって弾き返され、同時にピアスの少年の顔面へと直撃した。
「ぎゃあああああああッ!」
鼻がひしゃげるほどの激痛に悶えているのも束の間、今度はパンチを頬に一発。
間髪入れずに腹にもう一発を食らった。
同時に「バチッ」と何かが弾けるような音が聞こえたかと思うと、数秒ほど動きを止めていたピアスの少年が、頭から地面へと崩れ落ちる。
しばらくびくびくと痙攣を起こしていたが、やがて気絶した。
「…………もう終わりか?」
ぱっぱと手を叩きながら、ニット帽の少年は残りの手下の不良達を睨みつける。
すると、先程まで威勢のよかった不良達の顔がみるみるうちに青ざめていった。
それもそのはず、このニット帽の少年は鉄パイプで殴りつけられたのをいとも簡単に跳ね返し、尚且つ少ない手数でピアスの少年を失神させたのだ。
残った不良達は、各々が引きつらせた表情のまま情けない声を漏らす。
その内の一人が素頓狂な声を上げながら逃げ出すと、それに続くように残りの不良達も一目散に逃げ出していった。


「いや~さすがっス、ライトのアニキ!」
敵対勢力が去ったところで、ニット帽の少年の仲間内の一人が言う。
「今回もあんまりデケェ喧嘩にならなくてよかったな」
ニット帽の少年――「ライト」と呼ばれた少年は、安堵の様子で答えた。
「……ってアニキアニキ!コイツはどうすんスか!?」
するとまた仲間内の一人が、地面に倒れたまま伸びているピアスの少年を指差して言った。
それを引き金に、その他の仲間もざわつき始める。
「ほっとけほっとけ。自業自得だよ」
「えー……このまま放置ってのも有り得ないっしょ」
「別に死にゃしないって」
「まぁそうだけどさぁ……」
「うわっタトゥー入れてるよコイツ」
「マジか、いかつ!」
「げぇっ、お、おれだったらビビっちまうかも……」
「あ、あたしも~」
しばらく言い合いが続いていたが、ライトはそれには目もくれず、すたすたと気絶しているピアスの少年のもとへと歩み寄った。
「お~い、生きてるか~?」
とりあえず声をかけてみる。
返事はない。
「お~い」
しゃがみこんで頬をぺしぺし叩いてみる。
返事はない。
「おいってば~」
ゆさゆさと体を揺する。
返事はない。
「…………」
ライトは倒れたピアスの少年の額に指をくっ付けた。
そして、
「おらよっと」
「アギャッ!」
ビリッ、という音がしたかと思うと、ピアスの少年がまるで電源が入った機械のように目を覚ました。
ライトが自らの身体から電撃を放ったのだ。
ピアスの少年は一瞬、自らが措かれている状況を理解できずに呆然としていた。
が、ライトの姿を確認すると、ようやく大体の事情を理解したように言う。
「あァ、何だよテメェ……これからリンチでもするってか?」
周囲を見回しても、既に味方だった不良達はいない。
ここで抵抗しても無駄だと悟ったのだろう、ピアスの少年は諦めた様子であった。
「んなことしても意味ねーだろ……ま、その様子じゃあ大事には至らなかったみてーだな」
「ケッ、善人気取りかよ」
相変わらずガンを飛ばしているピアスの少年に物怖じすることなく、ライトは冗談混じりに言う。
ピアスの少年の悪態に、ライトは「まっ、そんなとこだな」と素っ気ない様子で答えた。
「……気に食わねェヤツだ」
口ではそう言いながらも、敵意の感じられないライトの様子に、内心ピアスの少年はほっとしていたのだった。



一通りのいざこざが終わり、ピアスの少年はまた仲間のもとへと帰っていった。
曰く、「この場所からは手を引く」とのことで、取り敢えずの心配はなくなった。
今回のことで懲りたのだろう。
そうでなくても、ライトとの圧倒的な実力差に怖じ気づいた、といったところだろうか。
「だぁぁ~疲れたぁ~」
「本当甘々っスねアニキは……知らねぇっスよ、これからどうなっても」
「ノイ……怖いこと言うなよ」
「ま、あながち間違いじゃないかもね」
「おいチトセまで……!」
自分を弄りたおす仲間二人に噛みつきながら、ライトは仲間達と共に自らの住処への帰路についていた。


ふと、ライトは空を見上げた。
牢屋の格子のように連なるビル群の隙間を、透き通るような青色が埋める。
ぽっかりと空いたその青空に、一機の飛空艇がビルの遥か上空を横切っていく。
彼の目には、それが自由に空を翔んでいく鳥のように見えた。


――――ライト・E・シャープ。

不良達が今日を生きるこの町で、ただ一匹、未だ見ぬ明日を見続けようとする野良犬の名だった。