読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

二章 ⑪

「しっかし驚いたっす、まさかあのフエラムネ野郎があのお姫様誘拐未遂の真の首謀者だったとは」
「ええ、とんだロリコン野郎だったわ」
苦虫を噛み潰したような顔をするピアニ。どうやらまだ自分の姿に変身されたことをまだ根に持っているようである。

あの戦いの後、僕らはフエラムネを縛り上げ、そのまま本部に送りつけてやった。
すると驚いたことに、後々の調べによって、芋づる式に奴の様々な悪事が露見することとなった。
奴が魔法の研究家であり、その一貫として魔女の力を欲していたこと。それにともない、あの変身能力を使いディザスター王に扮し、他人を利用して姫を誘拐しようとしていたこと。そして自分の魔法技術を高め、さらなる魔法を習得しようとしていたこと。
知れば知るほど、奴がどれくらい私利私欲しか考えられない野郎か理解できた。
収穫もなしで難航するかと思われた再調査は、意外にもあっさりと解決されたのだった。

任務後、二人とも念のため検査をされたが、幸い掠り傷程度で特に異常は見当たらなかった。ピアニに関しては、あの状況で傷ひとつないという強運ぶりだったらしい。
ともあれ、何とかお互い無事で済んだということだ。それだけでもよかったと思う。
自分達の部屋へ戻ってきたのは、それから数時間経ってからだった。

「あの変身魔法で王様に化けたのね……原理はあの分身と同じみたいだけど」
自室。
ピアニは眉間にシワをよせつつ、机にばらまかれた資料とにらめっこをしていた。
「つーか大丈夫なんすか?戦ってるとき結構建物ぶっ壊しちゃったんすけど」
対する僕は苦い顔をしながら、寝転がることもせずにただソファーに腰かけていた。
思い返してみると、戦いの最中、僕らは敵の攻撃を防いだり逆に攻撃したりするためにやたらと壁や天井や床をドンパチ撃ちまくっていたのだ。
当然内部はボロボロ。元からボロい建物ではあったが壊していいわけではない。
まだ決まったわけではないが最悪の場合弁償しなければならないだろう。
だがピアニは視線を資料から離すことなく、
「それなら大丈夫みたいよ。あの王様が今回は大目に見てくれるって」
淡々とした口調でそう言った。
僕は一瞬驚く。
「やけに太っ腹っすね……」
そっけない態度のまま、ピアニは言う。
「なんたって『厄災の国』で『魔法の国』なんだし、災害の対策もバッチリってことなのかしらね」
「災害の対策って……まるで僕らが災害かなんかってことみてーな言い方じゃねーすか」
酷い言い様だ。だがそういうことならば、弁償も何も考えなくていいということになる。
僕はほっと胸を撫で下ろすと、そのまま電源を抜かれたロボットのようにソファーへ倒れ込んだ。
「魔法ってつくづく便利っすねー……悪用も何でもできちまうし、科学とは大違いっすよ。ふぁんたじ~って感じっす」
そしてうわ言のように呟く。
「それは違うわ。『魔法』と呼ばれてはいるけど、厳密に言えば科学の一部なの」
「科学?」
「科学的に証明されたものに、オカルト要素がどこにあるっていうのよ」
「言われてみれば…………じゃあなんで最初にそれを発見した人は『魔法』なんて名前を付けちまったんすかね?」
「さぁ?でも、もしかしたら当時の人にとっては本当に魔法だったのかもね」
ピアニが言うには、進み過ぎた技術はもはや魔法と何ら変わりはないということらしい。
例えば、石で作られた道具で狩りをしていた頃の人間が、現在では当たり前に普及しているテレビを見たら、はたして彼らはどう感じるだろうか。
きっと彼らは仕組みはおろか用途もわからないその謎の箱に驚き、そして得体の知れないものだと恐怖するはずである。
彼らにとって理解し得ないもの、あるいはまだ編み出されていない未知の技術は、彼らにとってのある種の魔法のように見えるのではないだろうか。
名称こそ「魔法」と呼ばれているものの、今存在してるそれはもはや理解し得ないものでも、あるいはまだ編み出されていない未知の技術でも何でもない、ただの科学に過ぎないのだ。

だとすると――――「異能力」はどうなるのだろう?

魔法とは違い、人間自体が力を持った異能力者。
昔は超能力やらエスパーやらと呼ばれていた事例は多少はあったそうだが……魔法が発見されてからはその事例は急激に増したという。
魔法が使われるようになって環境が変わった影響なのか、もしくは何か別のものが……

「――――珍しく考え込んでるわね」
急に声が近くで聞こえたせいで、僕は「あっ!?」と間抜けた声を上げてしまった。
気がつくとピアニは資料を処理していた手を止め、じっとりと僕の顔を覗き込んでいた。
疲れているのだろうか、どうやらいつの間にか、性に合わないことを考えてしまっていたらしい。
ふーっとため息をつき、無意味なことをするのはやめだ、と自分の心に言い聞かせる。
「なーピアニ」
「何?」
若干こんがらがりそうな頭をどうにか正常に保ちつつ、だるーんと手足をソファーから垂らした。
「全然関係ねーことっすけど。結局、あのフエラムネ男の本名ってなんだったんすか?」
一瞬きょとんとするピアニだが、すぐにそれも呆れたような、笑顔のような表情へと切り替わっていた。
「ふふ、やっぱそういうどうでもいいことだけ気にしてる方があんたっぽい」
そしてクスクスと笑いだす。
「これ見終わった後あんたにも見せてあげるから、今は少し寝てたら?」
そう言うとピアニはまた資料へと向かっていた。
「それもそうっすね。んじゃ、おやすみっす」
「おやすみ、お疲れ様」
ピアニの声を聞き届けると、瞼を閉じて全身の力を抜く。
そのまますぐに、僕は眠りに落ちていった。





はっと目が覚めた。
部屋の壁にかかった時計を見ると、深夜二時を指し示していた。
とりあえず伸びをしながら身体を起こし、大きなあくびをしながら目をぱちぱちと瞬きさせる。
室内を見渡すと、資料とのにらめっこの末に敗れたであろう、すーすーと寝息を立てているピアニの姿が目に入った。
……様子からして調査書を見せてもらうどころではないようだ。きっと仕事で疲れていたのだ、今はそっとしておいてやろう。
僕は上着を脱いでピアニに掛けてやると、やることもなかったのでまた眠ろうかと思いソファに横になる。
「………………」
だがしばらく寝そべっていても、全くと言っていいほど眠くならなかった。
それどころか、変な時間帯に起きてしまったせいかどうも目が冴えてしまっているようである。
このまま眠れずに横になったままは退屈なので、僕は仕方なくまた身体を起こした。今度は軽いあくびをして、ソファーから立ち上がる。
特にすることもないので、部屋から出てその辺で朝まで時間をつぶすことにした。


深夜帯ということもあって、廊下もえらく静かである。
静か、といっても全員が寝ている訳ではない。当然深夜帯でもひっそりと仕事を片付けていたり、深夜帯に活動を始める人物も少なくない。
現にいくつかの部屋の明かりはついたままとなっていた。
みんな真面目なのだ。いやむしろ僕のように仕事を相棒に丸投げしている方が特殊ではあるが。

基本的に僕らの組織の一員はそれぞれペアを組み、それに加え最低限の衣食住が与えられる。
小規模な組織ならではの待遇である。
これは互いの信頼を高めたり、監視し合うことで情報が外部へ漏れにくくしたりするためでもあるが、実際のところ僕やピアニのような身寄りも何もない人間のためであるそうだ。
もっとも、僕自身他のメンバーのことはあまりよく知らないのだが。

しばらく歩いていると、一つの部屋の前で足が止まった。
その部屋の表札には、ブルーアイズ、リニアと書かれている。
ブルーアイズ、なんて変わった名前の人物はこの小規模な組織の中では他にいない。どうやらあの風雷神先輩コンビの部屋で間違いないようだ。
じっとその表札を見つめた。
そのときふと、あの時のピアニの言葉が脳裏をよぎる。
『あの先輩達、あたし達にもシャイ ンさんにも何か隠してる気がする』
取り調べの後に言っていたことだ。
僕はそんな気はしていなかったが……。
部屋の前でしばらく突っ立っていると、何やら話し声が中から聞こえてきた。
僕は仕事は駄目だが耳がいいらしい。ドアに耳をくっつければなんとか聞き取れそうである。
「………………よし」
僕はおもむろにキョロキョロと周囲を確認し始める。
周りに人が来ていないことを確認してから、ゆっくりとドアに耳をくっ付けた。
うっすらと聞こえていた音が、かすかに話し声として聞き取れる。
男性の声――これはブルーアイズだろうか。
「……四年前にあった事件と同じだ。今回の現場に残された不可解な傷はおそらく四年前と同一人物の仕業だろうな」
いきなりとんでもないものを聞いたようだ。
四年前?事件?同一人物?
やはりこの先輩達には何か隠し事があったらしい。
集中しながら聞いていると、今度は女性の声が聞こえてくる。幼さが残りつつも、静かで落ち着きがある。
こっちの声はリニアのものだろう。
「では早急に四年前の事件について再捜査する必要がありますね。ですがブルーアイズさん、なぜ今になってまた現れたのでしょう……」
ブルーアイズの声は受け流すように答えた。
「さぁな。"化け物"の思考は俺にはわからん。ただ言えるのは『四年前の化け物が今になってまた現れてしまった』ってことだけだ」
僕は熱中しながらその会話に耳を傾けていた。
リニアと思わしき声は訊ねる。
「でも本当にいるんでしょうか……そんなモノが……私にはまだ信じられません」
「そうだな、俺も同じだ。少なくともあまり首を突っ込んでいいような話じゃない」
聞き耳をたてていた僕は何が何だかさっぱりだった。
先輩が何か隠しているのかという疑問を晴らすどころか、ますます疑問だらけになってしまった。
なんだか聞いてはいけないことを聞いている気がして、少しだけ萎縮する。
そろそろ部屋に戻った方が身のためだろう。
そう思った矢先だった。
突然足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
そして、
「そうだよな? そこのドア越しに聞き耳をたててるお前」
ブルーアイズの声がすぐ近くで聞こえた。
冷徹で、殺気を含んだ、恐ろしい声色。
僕は鳥肌が立つのを感じた。
遅かった。
アイツは、ブルーアイズは、僕が盗み聞きしていたことにとっくに気付いていたのだ。
冷や汗が一気に噴き出された。
今、このドアの板一枚の先に、ブルーアイズがいる。
聞き耳を立てていい気になっていたつもりだったのに、この先輩が自分よりも何十枚も上手だったのだ。
まずい。この状況はとてもやばい。見つかったら何をされるかわからない。どうする? どうしたらいい?
焦りで頭がいっぱいになりかけた一瞬、ドアの開錠音が中から聞こえるのがわかった。
わずかに開かれたドアの隙間から、殺気が滲み出ていた。
「ッ……!?」
逃げろ、と脳が全身に命令している。
僕は一か八かで急いでドアから素早く離れた。
だが、それはすぐに無駄なことだとわかった。
「あがっ!」
いきなり身体が重くなり、そのまま地面に這いつくばるように押し付けられ、身動きを封じられる。
重力とは違う。やつは風の能力だ。
だとすれば空気を使って僕の身体に圧力をかけているのだ。
「くそ…畜生…畜生…! あの野郎…!」
毒づきながら、このまま潰されまいと地面を這い動く。
だが間もなくそれも止められた。
何者かに背中を足で踏みつけられたのだ。
すぐにそれは誰かわかった。
「盗み聞きしてたのはお前か?」
ブルーアイズは恐ろしく冷静で、静かな眼差しで僕を見下ろしていた。
いつもとはまるで別人だった。
「荒っぽい…先輩っすね…てめー…!!」
僕は無謀だとわかっていても銃を手に取ろうとした。
黙っていれば殺される。ならば最後まで足掻い――

「ん?お前ノラムか?」

ブルーアイズは意外そうにそう言うと、あっさりとかけていた能力を止めた。
そして乗せていた足もさっさと退けていた。
「へっ?」
僕が拍子抜けした顔で身体を起こすと、ブルーアイズは素直に僕に謝罪をしてくる。
「すまん、スパイか何かだと思ってた」
肩透かしを食らった気分だった。さっきまでのあの恐ろしく冷静で、静かだったブルーアイズも、いつの間にかただの先輩の姿に戻っていた。
「こちらこそ……勝手に盗み聞きして申し訳ないっす……」
ぎこちなかったが流れで僕も謝った。
「気を付けてくれ。弾みでぶっ飛ばしてしまってたかもしれないからな」
ブルーアイズは口調こそ優しいものの、その目の殺気は微かながら残ったままだった。
最後まで安心できない先輩だ。
これは僕への忠告なのだろう、もう首を突っ込むな、と。
隠し事をしていたのも、変に詮索されないためだ。
だが忠告で留められている辺り、おそらく先程の会話は聞かれてもまだ問題のない方であるのだろう。だから、今回は見逃した。
見逃したから、これ以上探られないよう僕に釘を刺しておくのだ。
こいつの言葉は飾りにすぎない。ただその殺意で黙らせる。
僕もそれが感じ取れないほどの間抜けではない。
そうであるならば、すぐにでも殺されている。
「き、き肝に命じとくっす」
顔色を伺うように、余計なことを言わないように心掛ける。
「スパイとかには気を付けてくれよ」
ブルーアイズは部屋から出てきたリニアに、騒ぎを起こすなと注意されながら連れ戻されていった。

「…………」
しばらくその場で動くこともせず立っていた。
一人廊下に残された僕は、負け犬のようにそそくさと部屋に戻っていくのだった。