そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

二章 ⑨

半壊した建物の中、ひび割れた天井からはうっすらと月明かりが射しこんでいる。
僕は周囲の状況を確認することでなんとか気をまぎらわす。

……よし、まだまだ意識はしっかりしてるな。

ピリピリと残る痛みを我慢しつつ、僕は銃を構えなおした。
男は対照的にピンピンしている。
一列に並んだ四人の憎たらしい顔は余裕満々そのものであった。
分身とはいえ実質四対一だ。不利にもほどがある。
だが――
「弾がなくなるまでは踏ん張ってやるっすよ…!」
歯を喰いしばって睨みをきかせる。
「ふん、そろそろバテてきたのではないですか?」
もう諦めろ、と言うかのように男からはまた土の弾丸が撃ち出されてくる。
「――――とっくにバテてんすよ!!」
やけくそ気味に言いながら避けつつ、時間を稼ぐ。
せめてピアニが、あいつが何か思い付くまでは耐えなくては。
そんなことを考えている間も、弾は撃ち出され続ける。
身をひねってなんとかかわそうとするが、今度こそ弾の一部が腹をかすめた。
「っ、あ、が」
針でチクリと刺されたような痛みを受けながら、脚に力を入れて体勢をたてなおす。
「…もう限界でしょう」
「ッが…ぁぐ…けほっ、げほっ、はッ…まだまだ…!」
呼吸を整える。
「っすけど、ちょっと休憩タイム」
そう言って僕は銃を握りしめて引き金を引いた。
破裂音と共に、今度は男ではなくその手前の床にめがけて弾丸が炸裂する。
その衝撃で土埃が起こり、こちら側とあちら側の視界を遮断する。
「!これは!」
男の意識が自分から離れたのと同時に、僕は全力で物影へと倒れこんだ。
身を隠したところで休めるのはほんの少し。
そうとわかっていても少しだけ身体を休めたかった。

…そろそろ本当に殺される。
だが自分も含めピアニが死ぬという事実に不思議と恐怖はない。
むしろ心の奥底ではまだあのフエラムネ野郎に勝てる、とさえ思っているのだ。
それは二年前―――「あの人」に会う前に既に僕らは死ぬような思いを何度も何度も経験していたからだろうか。
いや、きっとそうじゃない。
多分それは、僕が「ピアニ・D・アース」という人間を信頼しているからだ。

「――あ」
その時、ふと誰かが目の前にいることに気付く。
もうフエラムネに見つかったのか?いや違う。
この気配はおそらく…

「遅くなってごめん、ノラム」

その声に気付き、くたびれていた顔を上げる。
声の主を探すと、そこには真剣な表情のピアニがいた。
ピアニは僕の目の前にしゃがみこむと、耳元で小さく囁いた。
「何とな~くわかってきたわ。あいつの分身の仕組み」
そのままピアニは小声で続ける。
「……ノラム、まだ動ける?」
僕は空元気だとわかりつつも応えた。
「余裕っす」
「……ならよかった…」
それに安心したのかピアニはそっと胸を撫で下ろす。
「じゃあまず相手に聞かれないようにここから少し離れるわよ」
「はぁ…それができてたらとっくに退散してーとこなんすけど」
わかりきったことを、と僕はピアニをじっとり見つめた。
しかしどうやらピアニはそれに対しても何か考えがあるようで、僕の持っていた銃を指さしながら言う。
「天井撃って」
「え」
「説明は後でするから!」
「は、はぁ…」
何が言いたいのかはよくわからないが、言われるがまま天井に向けて銃をぶっぱなす。
弾丸が、勢いよく天井に直撃し、そこから次第にひび割れが広がっていく。
丁度、フエラムネの男の前方の天井に。
「な、これは…!」
フエラムネの男が少しだけ驚いたのがわかった。
「……今のうちに離れるわよ!ついてきて!」
僕はピアニに手を掴まれ、一時その場から飛び出す。
その直後、天井がその形を崩し、瓦礫、破片、砂埃が落ちていくのと同時に、月の光が薄暗い通路に射しこんだ。
天井の崩れた部分は、障害物となって男の進行方向を塞ぐ。
「お~通せんぼっすか」
走り去りつつ後方を確認する。
「まだよ、ノラム!まだ天井崩れてないところがあるから全部壊して!!」
「あいあいさーっす」
僕は安っぽい敬礼をした後、崩し残しを能力で狙いをつけ、撃ち抜いた。
やはり同じように崩れ、今度こそ通路を完全に塞いだ。
「っしゃ!……あれ?」
そこまでやって一つの不安が生まれる。
「…あれ壊されたら通せんぼの意味なくねーすか?」
いくら道を塞いだとはいえ、フエラムネにはもちろんあの土弾がある。
壊されるのは目に見えているはずだ。
それなのになんで……。
疑問に思ってピアニを見るが、そんな僕の不安は全くと言っていいほど気にしていない様子だった。
それどころか、自信満々な様子で口元を緩ませてさえいる。
「ふっふーん!甘いわね。……最初から『通せんぼ』なんて、微塵も狙ってないわ」
「えぇ!?じゃあ何のためにっすか!??」
するとピアニは立ち止まり、得意気に来た方向を指をさした。
「あのフエラムネ男、よく見てて」
そう言われ僕は自分達を追ってきているはずのフエラムネの男を探す。
「あっ」
そこで僕は驚愕した。
「どう?どれが本物がわかるでしょ?」
「あ、あぁ…?」
驚きのあまり声を出すのすらぎこちない。
「どういうことっすか…」
ピアニの言う通りだった。
今では、先程まで区別がつかなかった『本物の』フエラムネの男が、はっきりとわかる。

――正確に言うなら、『四人もいたフエラムネの男のうち三人が、粗末な土の人形に見えていた』のだ。

「仕組みも案外単純なものだったわ…それさえわかっちゃえば、対処法なんていくらでもあるもの」
「バレてしまいましたか…」
フエラムネの男は残念そうに外の光が射しこんでいる場所で立ちすくんでいた。
「優秀ですね…なぜわかったのです?」
男は焦りを見せつつも冷静を装った。
「おかしいとは思ってたわ…だってあの男、ずっと『同じ土魔法しか』使ってこなかったんだから」
ピアニが言う。
「得意な魔法だったんじゃねーすか?」
「いくら得意だったからと言ってもワンパターンな攻撃はかえって敵に隙を見せるだけよ…分身で相手の攻撃をかわせるからって、ましてや実力もわからない相手に、そんな舐めたマネをするなんてアホのすることよ」
アホ。
……なんだか自分のことを言われている気がしてどきりとする。
「だから考えたの。もしかしたら『分身には単調な魔法攻撃しかできなくなるほどの複雑なものでできてるんじゃないか』ってね」
「ほうほう、それで?」
「戦ってるときに天井が崩れてちょっと光が射しこんだでしょ?……あの時少しだけ、瓦礫もないのに四人が不自然に何かを避けてるみたいな動きをしたの」
言われてみれば僕もそんな気がしていた。
ああ、あれは勘違いじゃなかったのか、とひとまず安心する。
「あの場で何を避けたのか…っていうことだけど、考えられるのは『射し込んだ光』。避けるということは、当たっちゃまずいってこと。……だとしたら、『光に当たると本物がわかっちゃうんじゃないか』と考えたわけ」
間違ってたらと思うとあたしも不安だったけどね、とピアニは付け足す。
「でもあの男の状態を見るかぎり、あたしの予想は当たってたみたいね」
ピアニの口元に笑みが浮かぶ。
「さしずめ『魔法で作った土人形に光を操って自分の姿の映像を映してた』…ってとこかしら」
「…え、なんで土人形に映像を映してただけなのに光が当たるとバレちゃうんすか??」
「映像を映すのに微妙な光の屈折を計算しながら操作してたんだから、いきなり明るい場所なんかに行ったら計算が狂ってモロバレじゃない!……ま、それを避けようとしてかえってあたしに見破られちゃったんだけどね」

一瞬の沈黙。

すると今まで黙って聞いていたフエラムネ男が、感心した顔でこちらを見ていた。
「……薄暗い場所なので誤魔化せるかと思いましたが…見くびっていました。ご名答です」
「どうも」
どこかイラッとくるどや顔でピアニは言う。
「ですが……」
フエラムネの男がぎらりと睨む。
その口には、フエラムネが咥えられていた。
「分身が見破られて使えない以上、私も私本来の魔法で戦わざるを得ませんね…!」
ぴーひゅるるるとフエラムネの音が響いた。
冷や汗が一気に吹き出た。
勝利ムードになっても別に相手を倒したわけではない。
あくまで僕らは「相手の技の一つを封じた」に過ぎないのだから。
「一難去ってまた一難っていうんすよね、これ……」
「そ、そうね…」
二人揃ってずりずりと後ずさりをする。

殺されないことを祈りつつ、僕は静かに銃口を敵に向けた。