そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

一章 ⑮

処刑場からやや離れた地点。
使われずに風化しているせいか、ここからでも内部の様子は見ようと思えば見れる。
そんな場所で。
「ふぅ…誰かに化けるのは魔力を消費するので疲れますねぇ…」
ザラザラと騎士の形をした『それ』は崩れた。

「騎士のふりをして騎士長シャインを騙せたまではよかったんですけどねぇ…」
崩れた中から出てきたのは先程の男だった。
「…ちょっと終わるの早すぎやしませんか?」
男は不機嫌そうに戦闘の終わった処刑場を見ていた。
「ですが、国に混乱を招くことくらいはできそうですねぇ…ククク」
男は怪しげに笑っていた。




――フォルは自身を淡い光で囲み、元の自分の姿へと戻っていた。
腹部の傷は綺麗さっぱり消えている。
だが、今の彼にとってそんなことはどうでもよかった。
彼は怪訝な表情を浮かべながら、この広間の出入口を見つめていた。
「覗き見っていうのはよくないんじゃないの?」
「……!」
出入口から顔を見せたのは、不安そうな表情でフォルを見つめるシャーラだった。
若干の怯えを混えながら彼女は言う。
「す、すいません…フォル君が心配で戻ってきたら…ドラゴンが誰かを吹き飛ばして…そしたらドラゴンの中からフォル君が出てきて…それで…」
どうやら飛ばされて瓦礫に埋もれてしまったのがシャインだとは気づかなかったらしい。
そんな彼女の様子を見たフォルは、諦めたようにため息をつく。
「……ごめん。やっぱり怖いよね」
「!そ、そんなことは…」
「いいんだ無理しなくても。慣れたから」
彼は冷たく言い放つ。
随分と自虐的な言葉だった。
ドラゴニュート。
いくら魔法が普及した世界とはいえ、想像上の生物までもが存在しているわけではない。
そういった理由から、フォルの身体は『異常』だった。
それゆえ、常に周りから避けられ、恐れられて生きてきたのだ。
いくら友好的な人物でも、彼の異質さを知ればすぐに避けられる。
彼のその姿を見れば、もう二度と寄ってくる人物はいなかった。
だから、人にあの姿を見られれば、自分から去るしかないのだ。
彼は出入口の所まで歩いていき、
「じゃあね。今日は楽しかったよ」
そう一言だけシャーラに言うと、そのまま立ち去ろうとした。
だが。
「何でそんな事…」
シャーラはフォルの腕を強く掴んだ。
「何でそんな事が言えるんですか!ちょっとくらい他人と違っていたってあなたはあなたです!あなたは言っていたじゃないですか…『自分で自分を理解するには限界があるから他人と関わっていくんだ』って!」
彼女はいつもの優しそうな様子とは一変して、怒りを露にしていた。
彼女の芯の強さを感じさせる、真っ直ぐな瞳で。
「わたしはあなたが本当はいい人だって知ってます!どんな理由だろうと例えそのつもりがなかったとしても…あなたはわたしを助けてくれたじゃないですか…わたしに勇気をくれたじゃないですか!!」
他人と違うことで不幸になることだってあるかもしれない。
それでも、それだからこそ前に進むしかないのだ。
それをシャーラに教えたのは、他でもないフォル自身だった。
「…無理だよ」
「無理なんかじゃないです!わたしだって前に進めたんです!だからきっとあなただって…少しずつでも進んでいけるはずなんです…」
フォルは何も言い返せなかった。
呆れてものも言えないのか、それともシャーラの献身的な態度に心を動かされたのかはわからないが、とにかく彼は何も言い返すことはできなくなっていた。
そう、他人と違って苦しんでいたのはシャーラも同じなのだ。
だが彼女はそれが原因でこんな事態に陥っても、自分の力について悩んでも、結局は他人と関わることをやめようとはしなかった。
彼女には、そういった強さがある。
フォルにはそう感じられた。
(…俺は…)
人との関わりを拒絶していたことで、大切な何かが抜けてしまっていたのかもしれない。
シャーラは怒り顔から元のやわらげな表情に戻り、フォルに優しく声を掛けた。
「どんなに他人とは違っていても、フォル君はフォル君じゃないですか」
「………」
フォルの中で、何かが変わろうとしていた。
彼を恐れず、『友達』と呼んでくれたシャーラ・I・ディザスターとの出会いによって。
いくら他人との関わりを拒んでいようが、結果的に誰かと関わりを持ってしまったのだ。
それとも最初から、人は他人がいなくては生きていけなかったのだろうか。
フォルは考える。
人は優しさに触れると心が揺らいでしまう。
確かに浅はかで甘っちょろい考えではある。
しかし、その甘さが結果的に人が誰かを救おうとする心になったのだ。
そしてそれこそが、自然と他人を惹き付けているのだろう。
シャーラにはそれがあった。
何もできないことはない。彼女はその心で自分の大切なものをいつの間にか作り上げていたのだ。
今はその甘さに惹かれてみるのもいいかもしれない。
「ありがとう、お姫様」
フォルの答えは、決まった。


――おそらくシャーラが連れ去られてからかなりの時間が過ぎた。
「お城に早く戻らないとまずいんじゃない?」
「あっ……ちょっとまずいですね」
彼女はあたふたしている。
「…時間も遅いし俺が送っていこうか?いろいろあって疲れたんじゃない?」
「そういうことでしたら、ついでにお城へ寄っていきませんか…?」
「うーん……まあいいけど」
「やった!」
こうして騎士長シャインを倒し、フォル達に起こった事件は幕を閉じた。
「………」
フォルはふとシャインの倒れている方へ向く。
瓦礫に埋もれて姿は見えないが、確実に気を失っているはずである。
「あの」
シャーラも瓦礫に気づいた様子であった。
「結局この事件の犯人はどんな人だったんですか…?」
「え、あ、あー…犯人ね」
実は騎士長シャインでした!とは言いにくい。
遅かれ早かれバレてしまうが、今ここで言うべきではないだろうとフォルは思い、適当に嘘をつくことにした。
「ただの賊だったよ?気絶しただけだしそのままでも大丈夫なんじゃない?」
「そ、そうなんですか…?」
単純なシャーラはそのまま鵜呑みにしてしまう。
フォルはほっとため息をつくが、そこで彼はあることに気づいた。

そういえば、あの騎士は一体何だったのだろう。
それだけではない。
自分を襲った騎士達にシャインと偽って命令を下した人物。
それにシャインだ。
彼が命令した訳ではないのなら、何故シャーラを連れ去ったのだろう。
疑問が多すぎる。
フォルはシャーラとともに処刑場を出たあとも、その疑問はわからなかった。
この事件は何か裏があるのだ。
妙な情報操作により上手く騎士達に誤情報を流し、内乱へと促そうとした人物。
それは一体、何者なのだろうか?
(……いや、俺には関係ないことか)
もしそんな人物がいるなら、次もまた仕掛けてくるはずである。
その時には、今度は確実に潰すだけだ、とフォルは心に決めたのだった。