そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

一章 ⑨

「うぅ…何てはしたないことを…」
「ま、まあそういうこともあるよ」
町の時計台を見ると、時刻は午後の2時を指していた。
「そういえばお昼ご飯がまだだったかな…」
城下町探索に熱中しすぎていたせいか、昼食の事をすっかり忘れていたのである。
フォルは適当に食堂やレストランのようなものを探し始める。
その後ろをついてきたシャーラもまた、どこか昼食のとれる場所を探していた。
なんとか嘔吐の事は気にしなくなったようだ。
「外食は久しぶりかな…」
「え、じゃあいつもはどうしてるんですか?」
フォルがぼそりと呟くと、シャーラは興味深そうに顔を寄せる。
「ちゃんと自炊してるよ」
「そうなんですか!?…すごいですね…!」
彼女は目を丸くして驚く。
今まで誰かに用意してもらっていたシャーラにとしては少し意外だったのか、尊敬の色も見える。
「しっかしお姫様って楽でいいよね…」
フォルは頭の後ろで腕を組みながら、だるそうにしていた。
「そんなこと………そんなことないです…」
だが、シャーラは顔を俯かせてしまう。
「お姫様だって大変なんですよ?…自分は誰かの決めた生き方でしか生きられなくて…友達なんていない、ずっと独りぼっちで…寂しかったですよ」
「あ…」
フォルはまずいことを言ってしまったと反省する。
全てのものには良いこともあれば、またそれとは別に悪いこともある。
王族も例外ではない。
失敗しない生き方を得られるかわりに、友達も作れずに一生を終える。
「だけど、フォル君がいるからもう寂しくないです!」
そう言ったシャーラはにこりと笑ってみせた。
しかしその笑顔は、どこか悲しさを堪えているようにも見えた。
「ま、まぁしんみりした話はおいといてさ…とにかく今はお昼ご飯だよ!」
フォルはこれ以上シャーラを落ち込ませないように話を切り替えると、昼食のとれる場所を探すのだった。




―――レストランのような場所を見つけたので、そこで昼食をとることにした。
テーブルに乗せられたサンドイッチの山は食欲をそそる。
一口食べれば、レタスやハムといった具材の味が舌を満たしていく。
「初めて食べますけど…すごいおいしいですねこれ!」
サンドイッチをもごもご食べながら、シャーラは初めての外食を堪能していた。
(まさかサンドイッチすら知らなかったなんて…)
フォルもサンドイッチを頬張りながら彼女の様子をまじまじと観察していた。
「おいしい食べ物」として認識していたらしく、シャーラはフォルに教えてもらうまで彼女の口から「サンドイッチ」という単語は出てこなかった。
(…確かにお姫様も不便だね)
そう思いながらフォルはもうひとつサンドイッチを皿から手に取った。
「そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど」
口に入れると、彼はそのまま話を持ち出す。
「なんですか?」
「この国はどういう事があってここまで大きくなったのか気になってさ…お姫様なら歴史くらい知ってるんじゃないかなと」
するとシャーラは食べるのを中断する。
「そうですね…いくら世間知らずとはいえ、わたしも国の歴史くらいならお話できますよ」
さすがに自分でも世間知らずであることは自覚しているようだ。
「魔女についてはお話しましたよね?」
「あぁ、そうだね」
「その、魔女についてなのですが…昔、彼女らは厄災を呼ぶ存在として『魔女狩り』をされていました」
フォルの目が細くなる。
「魔女狩り?…確か火で炙ったりするやつだよね?」
「そうですね。魔女狩りも魔法の一種で、対象とする魔女から『魔女の力』を消し去る事で国等への反乱を防いでいたんです」
つまり強力な力を持つ魔女は、様々な歴史の中で虐げられてきた…と、シャーラは付け足す。
「…そうして減らされてもなお力を失わずにいた一部の魔女達は、それぞれ別の場所でひっそり暮らすようになったんです」
「………」
フォルはなんとなく『ひっそり暮らす』という言葉が心に突っかかった。
自分の持つ力のせいで、何かに怯えながら暮らす。
それは自分にも同じようなことが言えたのだ。
しかしシャーラはそんな彼の様子には気づいていない。
「そんな中、ある一人の魔女がある場所で、魔女が差別されないような国をつくろうと考えました」
「…それが、この国?」
「そうです!」と胸を張るシャーラ。
普通の男ならその豊満な胸に釘付けになりそうだが、フォルの場合はチラリと胸を見ると、「Eか…」と呟くだけだった。
もちろん、本人には聞こえないように。
「じゃあ、君ら王族はその魔女の末裔ってことになるのかな?」
「はい!ちなみに魔女は厄災を呼ぶ存在とされていたことから、王族は代々魔女の力を受け継ぐと同時に姓を『ディザスター』にしたのです」
そこでフォルはさらに気になったことを口にする。
「なんとなく国については理解できたけど…そういえば、魔女の力って男性にも宿るものなの?」
もちろん、魔女と言っているのだから男性だと矛盾してしまうのだが…。
「あぁ、一応魔女の力といってもあくまでも『強力な魔法を扱える特性』ですので…性別には影響はないみたいです。現にお父様が今は魔女の継承者ですし」
「オカマジョ…」
「ん?何ですか?」
「ごめん何でもないよ」
失礼極まりないアダ名が出かかったが、フォルはさらに気になったことを口にした。
「じゃあ、さ」
彼は多少の間を置く。
「もし、君らの一族が滅んだら…国はどうなるの?」
シャーラは一瞬ぽけっとしていたが、やがて言いづらそうに口を開く。
「それが…」
彼女は一度周囲を気にするように辺りを見回し、誰にも聞かれないように声を抑えながら言った。
「実は…その、もし王族が人為的…つまり殺される等で一族が途絶えてしまうと…」
コホン、と軽い咳払いをする。
「この国自体にかけられた、国すらも消滅させる強力な『厄災の魔法』が発動するらしいんです」
「厄災の…魔法?」
「はい。具体的にはわたしもよくわからないのですが…とにかく、お父様が言うには国そのものがなくなってしまうらしいんです……いや、でも別に病死や寿命では問題ないのですが」
と、そこまで話した後、
「ちなみに王族以外には秘密なんですけど…わたしフォル君のこと信用してますから!」
とも言った。
「信用って…今日出会ったばかりじゃないか…」
「いえ、あなたが悪い人じゃないのはわたしだってわかりますよ!」
「そういう問題じゃなくて…」
フォルはつくづく不安になる。
シャーラは確実に口が軽い。
おそらく、人との関わりが慣れていないせいでもあるのだろう。
しかし、もし襲われたり誘拐されてしまった時、こういった機密情報は簡単に垂れ流され、悪い連中に知られてしまうだろう。
彼女を見ると、再び残ったサンドイッチに手を出しているところだった。
(…なんでそんな簡単に信用できるんだ…)
フォルはシャーラが嘘をつくような器用な人間ではないと思っている。
しかしだとすれば彼女は簡単に人を信用するような人間でもあるのだ。
(俺も…そんな時があったのかな)
だが昔の記憶は残っていない。
あったのは、人に裏切られ続けた思い出だけなのだから。
彼にとって、シャーラは不思議でならない存在である。
今もなおパクパクと幸せそうにサンドイッチを頬張る彼女には、他人とは違う何かがある。
何故、こんなにも笑顔でいれるのだろう。
「?フォル君食べないんですか?」
するとフォルの様子を見たシャーラは、サンドイッチを片手に「どうしたんですか?」と聞いてくる。
「あ、ごめん…ちょっとボーッとしてた…」
彼はこれ以上考え込んでも何も出てこないと思い、皿に残った最後のサンドイッチを手に取るのだった。