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そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

一章 ⑧

魔導師のような格好をした女性の像が従えている(ように見える)竜の口から、絶え間なく水が噴き出している。
年代を感じさせる古い像でそれなりに広々としているのだが、町の人達はもうそんなものは見飽きたと言わんばかりに人の気配がなかった。
大通りとはえらい違いである。
そんな場所で、フォルはシャーラに連れられてやって来たのだ。
「じゃあ見させてもらおうかな~…本場の魔法」
彼はそう言うと興味深そうに近くのベンチに腰かけた。
「そう言われると緊張しますね…」
と、シャーラは例の魔具を取り出す。
「じゃ、じゃあやってみますよ~」
キッと魔具に意識を集中させる。
すると魔具は光を放ち始め、魔方陣のようなものが空中に出現した。
「む…むむ…む…」
彼女が唸りながら力を溜め…そして、そのエネルギーは一気に放出された。
ゴッ!という音とともに野球ボールサイズの光の弾が凄まじい勢いで飛んでいく。
「―――ん?」
「あっ」
飛んでいった先にいたのは…フォルだった。
「フォル君!」
とても回避できるような速度ではない。
それは一直線に彼めがけて突き進んでいく。
絶体絶命。
いや、違った。
「っと危ない!」
彼は軽く手を振るう。
触れるだけでも大怪我は間違いないのにも関わらず。
「え…?」
だが、振るった彼の手のひらには大怪我どころか傷一つなかった。
それどころか、飛んで来たそれを簡単に握りつぶしてしまったのである。
「気を付けなよ!危ないじゃないか」
「ひ、あ…ご、ごごめんなさい…」
突然の事態に驚きを隠せないシャーラだったが、フォルに叱られたことで肩をすぼめてしまう。
「…まぁ、すごい威力だったよ。もしこれより強い魔法だったら判別できないレベルまで粉々になってたかも…」
「あ、は、はい…」
「さすがは魔女…といったところかな?」
「あぅぅぅ…」
誉められてるのか叱られているのかわからなくなってきているところで、ふと周りへの被害を気にする。
「あぁ、何とか被害はなかったみたいですね…」
「ア、ヤバイウデイッタァ!!!!」
「えぇ!?」
「嘘だけど」
「えぇぇ!?!!?」

「…………何をしておられるのですか?姫様」

安っぽいコントもどきを行っていると、背後から男の声がした。
二人が振り返ると、そこには赤みがかった白髪に鋭い目付きをした鎧姿の男がいた。
「…アンタは?」
フォルは不信感を籠らせた目で、男を睨むように見つめる。
「私はこの国を護る騎士の長をしている『シャイン』という者だ。…お前こそ何者だ?私としてはお前はかなり怪しい人物に見えるぞ」
シャインと名乗った男も彼を睨む。
「俺は…フォル。ただの旅人さ」
「ただの旅人がなぜ姫様と一緒にいるのだ?」
確かに、今朝まで箱入り娘だった一国の姫に絡んでいる輩を怪しく思ってしまうのは当然である。
互いの睨み合いはヒートアップし、とうとう二人が戦おうと構えをとった瞬間、

「あ、あの二人とも…!」

シャーラがその間に割って入った。



――数分後。
「そうでしたか、姫様のご友人にご無礼をはたらき申し訳ない」
事情を話してなんとか和解したようである。
しかしフォルはどう見ても不審者なのだが、シャインは悪い人間ではないだろうと考え、あまり気にしない事にした。
「こちらこそ申し訳ないよ…」
彼は彼でニコニコしながら頭の後ろを掻いていた。
「しかし驚いた。今朝まで箱入り娘だった姫様にもうこのようなご友人ができていたとは…」
「そ、それはどういう意味ですか!わたしだってコミュニケーションくらいはとれますよ!!」
うがーっとシャインに飛び掛かろうとするシャーラだったが、隣にいたフォルに頭を掴まれて進めなくなる。
「ん?あの子は?」
「あだだ…放してくださいぃ…!」
と、そこでシャーラの頭を掴んだままのフォルはこの場にもう一人やって来たことに気づく。
4、5歳程度の少女だった。
赤みがかった白髪に赤い瞳。
小さな赤いスカートを履いたその少女は、シャインの元へ駆け寄る。
そして、
「ぱぁぱ!みぃつけた!」
と言うと、ぴっとりとシャインの脚にくっついた。
どうやらこの少女は彼の娘のようだった。
「か、かわいい…」
ようやくフォルの腕から逃れたシャーラは、そう言って少女の元まで行き身を屈める。
「こんにちは!わたしはシャーラっていいます!あなたのお名前は?」
優しい声色でにこやかに少女に語りかける。
「わたし『ありん』だよ」
ありんと名乗った少女はおそらく5歳という意味であろう五本の指を見せながら言った。
と、そこでフォルも身を屈める。
「べろべろばー」
「ひぇ!」
突然のことでありんはシャインの影に隠れてしまう。
「だめですよフォル君いきなり!これくらいの女の子はデリケートなんです!世間知らずなんですよ!」
「いや、君に言われてもな…」
しかしシャーラの言い分もごもっともなので、
「ごめんね、俺はフォル。このお姉さんの知り合いだよ」
と、適当に自己紹介をして、ついでにありんのマシュマロのように柔らかそうなほっぺをうにうに弄りだすのだった。
「フォ、フォル君?」
シャーラの制止も無視して続ける。
「んぎー!なにひゅるのぉ!」とパタパタ悶えるありんを見るときもフォルは笑顔だったが、別に彼はロリコンではない。
「おい。あまり人の娘に変質者っぽく接しないでもらいたい」
彼が幼女弄りに没頭していると、その父親からバッシングを受ける。
「ぱぱぁー!」
「そうかそういえばアンタの娘だったね」
「というか娘さんがいらっしゃったんですね…」
「………あのですね」
一気に場が妙な空気になる。
キリッとしたムキムキマッチョマン(鎧着用)の脚に大きな瞳をクリクリさせている幼女がいる様は、どう見てもネタにしか見えない。
「このおにいちゃんこわいよ~」
「あ~そうだな。さ、怖いお兄ちゃんとはバイバイしてママの所へ帰りなさい」
シャインはありんの頭を撫でながら、普通の父親っぽくそう言った。
「わかった…おしごと、がんばってね?……おねえちゃんたちばいばい…」
ありんはフォル達に向かって手を振ると、トタトタとその場から逃げるように駆けていった。
「大丈夫かな?あんな小さい女の子が町中をうろつくなんて」
フォルが心配そうにしていると、シャインが「大丈夫だ」と言う。
「ここからなら家は近い…しかも騎士達が見回りをしているのだ。それとも、私達騎士団の仕事が信用ならないか?」
するとシャーラもそれに続ける。
「しかも結構強いですからね!悪い人達だって悪さできませんよ!」
「それならいいんだけどね…」
フォルは気だるそうに呟いた。
「…では、私も見回りに戻らなくては」
と、シャインはフォル達に背を向ける。
「あぁそうだったね」
「旅人。姫様のご友人とはいえ…くれぐれも、姫様に迷惑の掛からないように。無闇に首を突っ込むことのないようお願いする」
「え?あぁ…わかったよ。じゃあ見回り頑張って」
「騎士長様!娘さんによろしく伝えといてくださいね!」
びょんびょん跳ねながら手を振るシャーラを見ると、シャインは一言「了解しました」と言ってその場を跡にした。


「やっぱり騎士長様は格が違いましたね!」
シャーラは純粋な笑顔をフォルに向けた。
「確かに勝てる気がしないね…別の意味で」
彼は苦笑いぎみに答えた。

「と、ところでフォル君…」
「何?」
シャーラは唐突にフォルに耳打ちをする。
見ると顔色は悪く、身体が小刻みに痙攣している。
「どうしたの…?」
「ちょ、ちょっとだけ気分が悪くなりまして…その、」
冷静に考えてみれば、生まれて初めての外出、17年もの引きこもり生活、そして今まで異様なテンションではしゃぎまわっていたのである。
しかも今さっきびょんびょん跳ねながら手を振っていたので、胃の中が相当かき混ぜられているはずである。
「ちょっと座って休もうか…」
フォルはそう言ったが、シャーラの方はもう駄目っぽいと言ったような顔で、
「もう限界です…」
とか細い声で声を振り絞ると、それからまもなく一人の少女はゲロインへと堕天することになるのだった。