そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

一章 ④

城内。
「姫様、一体何をしているのですか?」
ギクリ、とシャーラの肩が固まる。特に悪いことはしていないはずなのだが、どうも緊張しているせいかこうなってしまうのだ。
気を取り直して声がかかってきた方に振り向く。
「…あ、シャイン様!」
そこには白髪にツンツンした髪型の、細身ではあるが筋肉質な男が立っていた。
『シャイン』と呼ばれた男は言う。
「珍しいですね。いつも窓の外ばかり眺められていたのに。」
するどい目付きに長身なのに荒々しさが感じられないのは、丁寧な立ち振舞いからなのだろう。
そんな彼を見上げつつシャーラは質問に答える。
「…ちょっとお父様とお母様に用があるんです。シャイン様は何を?」
誰に対してもフレンドリーに接するのは、彼女が箱入り娘だからなのだろうか。
そんな事を考えながらシャインは背負った剣を指しながら、
「私は仮にも国を護る『騎士団』の騎士長ですので。今から町の見回りをしに行くところです。」
と、落ち着いた口調で言った。

――この国は『騎士』と呼ばれる人々に護られている。
いくら魔法が発達して厄災を防いでいても、他国からの侵略に対するべく武力が必要なのだ。
騎士達は『騎士団』を組織し、日々国の警備に勤めているのである。
シャインは、その騎士団を束ねる『騎士長』なのだ。

「騎士様も大変なのですね…しかし、外の世界を見れる…というのは素晴らしいですよね。」
シャーラが憧れを込めてそう言うと、彼は首を横に振った。
「そうでもありませんよ。毎日見ていると飽きてくるものです。」
それに、とシャインは続ける。
「これが私達の仕事ですので、辛いとは言っていられませんからね。」
彼は少しだけ笑ってみせた。
王族とは立場が違っても、彼らもまた国のために動いているのだ。
「すごいですよね…あ、」
そこまで言ったところで、シャーラは「ハッ」とした表情になる。
「…すいません何か引きとめてしまって…!」
彼女があたふたし始めると、シャインは冷静に頭を下げた。
「いえ、全然大丈夫です。むしろこちらこそ用があったのに引きとめてしまって申し訳ありません…。」
シャーラも「いえいえそんな…」と謙虚に一礼する。
そして、彼女はもう一度お辞儀をすると、
「…それでは、わたしはそろそろ用を済ませてきますね。」
彼女はパタパタと廊下の向こうへ歩いていった。



――王室の内部は広々としている。赤いカーペットが敷かれた先には、豪勢な椅子に王と王妃が座っていた。
しかも扉の外には不審人物が入らないよう護衛用の騎士が配備されているので、凄まじい緊張感に襲われるのである。
それは姫であるシャーラも同じだ。この場においては、たとえ両親であっても異常なほどに距離を感じてしまう。
「…それで、用とは何かね?シャーラ。」
王は威厳を漂わせながら、王室へ入ってきたシャーラへ率直に聞いた。
「実はですね…」
無理にでもシャキっとしようとしているのか、シャーラの表情はガチガチにこわばっている。
「…わたしももう17歳になりました。ですが、今までこの城から出たことはありません。」
まだ話を呑み込めていない両親に構わず彼女は進める。
「確かに、王族に危険が及ぶのはよくないとは思います。しかし、このまま外の世界を知らずに大人になってしまっても…わたしには何もできないと思うのです。国を治めたり、政治を行うについては『世界』を知ることが必要なんです。だから――」
一呼吸おいて、今まで募ってきた思いを述べる。
「…わたしに外出許可をいただけないでしょうか?」

「…………。」
すると王と王妃は互いに顔を見合せ、そしてシャーラを見る。
「え…だ、駄目ですか…?」
しばらく黙りこんでいたのが不安になったのか、シャーラが様子を伺うように聞く。
「うぅむ…。」
「うぅん…。」
「うぅぅ…。」
うなり声をあげる親子だったが、やがて怪訝な表情で王が口を開いた。
「だがシャーラ。『自分の力』の事について忘れたわけではあるまいな?」
王の眉間のシワが深くなる。
「…それはどういう意味でしょうか?わたしの力はもう制御できているはずですが…。」
「違うわ。シャーラ。」
と、ここで王妃が話に入ってくる。
「私達王家のこの力は特別なの。…悪い人達があなたを狙っているかもしれないのよ。」
「え…?」
シャーラは途端に不安そうな顔になる。恐怖心が芽生えてくる。
そんな彼女に、王は確認を取るように聞いた。
「…それでも、外へ出たいのか?」
「………。」

正直言うところ、彼女は怖かった。まさか自分達の持っている力が、このような危険を生むとは思ってなかったのである。
だがここで引き下がってしまっていては、一歩も先に進めないのだ。
だから、彼女は決断した。

「……もちろんです。今日はそのつもりで来ました。」

グッ、と。心を奮いたたせる。
そんな彼女の様子を見て、王は静かに考え込む。
すると、娘の背中を押してあげるように王妃は王に囁いた。
「いいのではないかしら。あの子は、もう自分で自分の生き方を決められるのだし。」
「…………そうだな…。」
そして。

「いいだろう。認めよう。」

「え、ということは…?」
「うむ。これも人生経験の一つだ。しっかり見てきなさい。」
「……!」
叶った。
今までずっと夢見てきた事が、ついに。
シャーラは喜びで身体にエネルギーが満ちていくのを感じた。
「ただし。」
そんな彼女に、王は念を押して言う。
「危険に感じたらすぐに戻ってきなさい。巻き込まれてからでは遅いからな。」



――シャーラは一人廊下を歩いていた。普段の彼女ならば、このあと昨日と同じような一日が待っている。
しかし、今日は違う。
今日は外出許可を貰い、ついに城の外へ出れるのだ。
「うぅぅん…やったぁ!やっと町を見れます!」

結局、危険も考慮して護衛を付けるべきだと言われたのだが…彼女はそういったものがあると楽しめない、と護衛を付けるのを拒んでしまったのである。

「……?」
喜びのあまりスキップのような動きで進んでいると、彼女はふと不審な人影があるのに気付いた。
城内の警備をしている兵士…にしては鎧を着けているようには見えないし、従者にしては少し異質なオーラを感じる。シャーラよりも長身の『人影』。
(変わったら格好ですね……ってあれ?ここって一般人は入れないはずじゃ…。)
そう、もとよりこの城は王族とそこに仕える者しか入れないはずなのだ。
「…………」
彼女は訝しげな表情をしながらも、その人影に近づいていくと、恐る恐る話しかけてみることにした。
「あ、あの…」
普通の人間であれば話しかけずに逃げ出すところだろう、しかし箱入り娘同然に育てられ、不審者など見たことのない純粋無垢な少女には無理な話であった。先程、不審人物に気を付けろと言われたばかりなのに。
「ん…?何か?」
話しかけられた人物は驚きもせずに振り向いた。
少し長めの黒髪に茶色のコートと帽子。左手だけに手袋を着けたシャーラと同じ年代の少年だった。