そめちめとブログと創作放出場

主にオリジナル作品、自分の日記などを載っけていきます。

三章 交差①

しばらく街の観光をしていたフォル・A・バイムラートとシャーラ・I・ディザスターの二人はいつしか、ちょっとしたレストラン街のような場所に来ていた。
灰色のビル群の片隅に、決して主張し過ぎることはないものの、確かな存在感を放つ場所。
入り口のゲートのようなものをくぐると、幾多の料理屋の洒落た看板が来客を出迎え、まるで別世界に来たかのように賑わっている。
相変わらず味気ないビルが、曇り空と中に背景としてそびえていたが、それすらも大人っぽさを演出する舞台装置のように感じられた。
この中にいるだけで、辺りから漂ってくる料理や食材の仄かな香りが鼻孔をくすぐってくる。
シャーラも、そんな料理の香りに食欲をそそられていた一人であった。
彼女は道行く店全ての、ショーウィンドウに並ぶ食品サンプルを物欲しそうな顔で眺めていたかと思えば、突然はっと我に返ったかのように首を振る、ということを繰り返していた。
まだだ、まだだ、と自分に言い聞かせても、時折彼女の口元からは涎が垂れそうになっている。
「あ、あの、フォル君……い、今は何時でしょうか」
昼食が待ちきれないシャーラは、探るような様子で隣を歩くフォルに現時刻を訊ねた。
「丁度午前の十時だよ」
「えっ、まだそんな時間なんですか」
予想よりも早い時刻だったことに驚くシャーラ。
それもそのはず、いつもより早めにとった朝食の影響で、体内時計がわずかに狂っていたのだ。
当然、昼食を欲するのもいつもより早くなっている。
「もしかしてもうお腹空いたの?」
フフッと鼻で笑うフォル。
「はい、実は……」
シャーラは若干頬を赤らめ、呟くように答える。
「じゃああと一時間後。いつもより早めの昼食になるけどいい?」
はやる気持ちを抑えつつ、彼女はにこりと笑顔を見せて頷いた。
「はい!喜んで」

――ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ~!

「~~~~~ッ!」
と同時に、彼女の腹の虫も盛大に鳴き声を上げ、彼女の顔は恥ずかしさのあまり熟した林檎のように赤く染まってしまうのだった。



午前の十一時を少し過ぎた頃。
依然として空は曇っており、気持ち気温が低く感じられる。
「さて、約束通り、ちょっと早いけどご飯にしようか」
「はい!」
フォルのその言葉を待っていました、と言わんばかりに目を輝かせるシャーラ。
通算十回、彼女はフォルの前でたびたび腹を鳴らし、その都度彼女はフォルにからかわれるというやり取りを行った。
「ふふふ、先程からあなたに意地悪されている間に行きたいレストランの目星は付けておきました」
してやったぞ、と得意気な顔をするシャーラだったが、実際にはフォル自身何もしてやられていない。
だがそんなことは気にもせず、シャーラは自らが真剣にチョイスしたであろう店へフォルを誘導した。

「あちらです!」
「え、あっち?」
そこは賑わっているレストラン街の雰囲気とは一変、人気のない細い路地であった。
「この店です!先程ちらっと見えて気になったので……」
彼女が指し示したのは、「料理ハウス」というダサダサの看板を引っ提げた、なんとも形容し難い怪しげなレストランだった。
「な、なんだあれ……」
フォルはあんぐりと口を開けたまま、人気のない路地の奥に存在するその店を二、三度見た。
どぎつい紫ベースの奇怪な色で壁に、髑髏やお札や悪魔に似た像といった、明らかに何かに取り憑かれてそうな雰囲気の装飾が施されたそれは、このレストラン街で浮きまくっているどころか、街並みの雰囲気自体を壊しかねないほどに異質であった。
「見てくださいフォル君、料理もこんなに種類が豊富です!」
シャーラが店前に展示された料理の写真を眺めながら言う。
フォルも倣ってそれを見る。
カレー、ラーメン、オムライス、ハンバーグ等、メニュー自体は至って普通のようである。
しかしそれでも尚怪しい。
コンソメスープを注文したらコウモリのスープが飛び出してきそうな、そのあまりにも胡散臭い店の風貌に、フォルは思わず苦い顔をした。
「さっそく入ってみましょう!」
「は?」
「はい?」
数秒互いの時間が停止する。
「シャ、シャーラちゃん……ここはやめといてどこか他の店にしない?」
ドン引きしているフォルとは対称的に、シャーラは瞳の星模様が煌めいている。
「どうしてですか?こういう場所こそ、"知る人ぞ知る名店"というものではありませんか?」
「どこで覚えたのそんな言葉」
フォルは、まさかシャーラも本気でこんなクセモノの店に入るわけないだろう、と高を括っていた。
だが残念なことに、彼女は本気でこの店に行くつもりらしい。
一瞬、フォルはシャーラが空腹でおかしくなってしまったのかと疑ったがそうではない、彼女はただ興味津々なだけのようだった。
確かに、興味を引くような風貌ではあるとはいえ、フォルがそれに「じゃあ行こうか」と了承するかどうかは全くの別問題であるし、彼にとっても、こういった明らかに人を選ぶ店はあまり気が乗らない。
そういったわけで、彼はなんとかシャーラに思い止まらせようと思案し始めていた。
すると、

「――――ねぇ、おにーさん達は今からこの店に入るんですか?」
ふと近くから知らない声で話しかけられる。
フォルとシャーラが訝しげに声のする方向へ振り返ると、そこにいたのは双方共に赤みがかった茶髪をした、十代前半ほどの非常によく似た顔立ちの男女二人。
双子だろうか、とフォルは判断する。
仮に違ったとしても、この二人が血縁関係者であることは誰が見ても一目瞭然であるだろう。
「そうなんです、実はわたし達は今から昼食でして……」
フォルが不信感を混じえた視線で双子を見ていると、シャーラが何の躊躇いもなく双子と会話をし始める。
人を疑うという概念がない彼女に対し、フォルが必死に「構うな」という意を込めて目配せをしたが、時既に遅く、彼女はいつの間にか双子と会話が弾むまでになっていた。
もはや、彼一人が止めさせようとしたところでどうにもならない。
「――へぇ~そうなんだ!……ここを選ぶなんてセンスあるよね、デクレ」
「そうだね、クレス」
クレスと呼ばれた少女が問いかけると、デクレと呼ばれた少年から打てば響くように返答が返ってくる。
(センス……センス?)
フォルが心の中で疑問を重ねる。
自分には到底理解不能な会話だ、と彼は半ば呆れた様子でシャーラと双子のやり取りを見ていた。

「――――ところでさ、おねーちゃん」
不意に、クレスの口調が一変する。
「¨ようじんぼう¨、雇いませんか」
それにすかさずデクレが続いた。
「用心棒……ですか?」
突然浮上したその単語にシャーラが小首を傾げると、双子は自分達を指して、宣言するように言う。
「私達結構強いんだよ!」
シュッシュッとパンチをするような動作をとるクレスの後ろで、デクレが解説するような口調で話し出す。
「実は僕達、こう見えて¨ようじんぼう¨として様々な人に雇われながら、日々の生活費を稼いでいます。……あ、心配しなくても実力は保証しますよ」
それに、とデクレが続ける。
「この町は何かと物騒です。裏の世界の住人がわんさかいると小耳に挟みました」
シャーラは双子の話に耳を傾けつつも、時折意見を求めるようにフォルの顔を見ていた。
それもそのはず、いきなり自分より年下である双子に、用心棒として雇ってくれと言われれば誰でも困惑する。
「ただの噂だよ。気にすることないって」
新手の子供を使った詐欺か、とフォルは怪しむ。
彼は適当に会話を流し、早々に双子をこの場から退散させようとしていた。
が、双子――クレスとデクレはそれを快く思っていないようで、仏頂面のままセールスを続ける。
「むっ。そこのおにーさんは危機管理能力が足りてないみたいですね」
「そうだそうだ朴念仁ー!この町は危険がいっぱいなんだよー!誰かが守ってあげなきゃいけないのー!」
いつしか彼らは、不服そうにフォルへの文句を垂れ始めていた。
フォルはしばらく、その連続ジャブのように浴びせられる文句を聞いていたが、不意に何かを思い付いたかのような顔をすると、ニヤリと笑って見せる。
「……いいよ、じゃあ用心棒なんて要らないってわからせてあげるよ」
すると、彼の目付きが一気に鋭くなった。
「なんだなんだっ、おにーさんやる気なのーっ!?」
「僕達を侮ってもらっては困りますよ」
対する双子もまた、攻撃的な視線をフォルへ向け始めている。
びりびりと、空気が緊張を帯び始めていた。
「ちょ、ちょっと皆さん……!」
シャーラがようやく緊迫した雰囲気に気付き止めに入ろうとするが、その時には既に辺りは空気が重みを増し、四方から圧し縮められるような感覚に支配されていた。
フォルと双子の両者共に、シャーラの言葉を聞こうとはしなかった。
張り詰めたその空気の中で、フォルと双子は互いにじりじりと睨み合う。


そして、


「はッ!」
フォルが先に動き出した。
「落ち着いてください!喧嘩は駄目ですよ!」
シャーラが訴えかけるのも空しく、双子の片割れ――――デクレへ、フォルの素早い蹴りが炸裂する。

――かに思われたが、すんでのところでデクレは身を捻ってかわし、懐から小型のナイフを取り出す。
「いきなり危ないですね……!」
そして反撃と言わんばかりに、フォルの蹴りを繰り出した方の脚へと斬りかかった。
「おっと」
だがフォルは、まるでそれを動きを読んでいるかのように避ける。
流れるようなナイフの軌跡を、のらりくらりと、いとも容易く。
彼の表情は余裕そのものだった。
「ははは、用心棒ってだけはあるじゃん」
フォルは一頻りの攻撃を避けきると、くっと脚に力を込め、ナイフを避ける過程で後退していた身体を前に押し戻した。
そのままカウンターを仕掛けようと前へ飛ぼうとするが、ふと、背後の違和感に気付いた。
「…………!?」
だが、彼が違和感を覚えたその時はもう既に遅かった。
「クレス!」
デクレの声がすると同時に、フォルは何者かに背後から腕を掴まれる。
そしてそのまま、彼の体重を利用される形で硬いアスファルトの地面へと叩き付けられてしまう。
「ぐッ」
頭から全身へ衝撃が走り抜ける。
だがその痛みが止む前に、彼の首元にはナイフが突き付けられていた。
その背後には冷徹な視線が、獲物を屠る時を待つかのように存在している。
双子の片割れ――クレスのものだった。
彼女の姿はフォルに見えてこそいなかったが、彼はクレスが背後で不気味に笑っているのを直感していた。
「…………降参する?」
彼女は確かめるようにフォルに問う。
それに伴い、首元に突き付けられたナイフが、首を掻っ切ろうと徐々に力を増していった。
まるで、早く降参しないと切っちゃうよ、とでも言いたげに。
だが、
「しないよ」
フォルはあっさりと答えると、彼を押さえ込んでいたクレスを、力任せに振り払った。
クレスは立ち上がらせまいとフォルを押さえようとするも、その力の強さに敢えなく敗れる。
「うわ、すっごい力……!」
思わず驚愕の声を上げるクレスだったが、間も無くフォルのパンチが彼女の腹を捉える。
「うげっ!」
そのままクレスは壁際まで飛ばされ、コンクリートでできたビルの壁に身体を打ち付けてしまう。
受け身をとる余裕もなく、彼女はどさっと地面へ倒れ込んだ。
「ちょっと、フォル君!」
そのすぐ傍にいたシャーラが口を尖らせて叫ぶが、フォルは何処吹く風といった様子で気にも留めなかった。
「あぅぅぅぇぇ……で、できゅれぇぇ~……」
フラフラとした動作でクレスが立ち上がろうとする。
彼女は再度デクレの援護に回ろうとするも、フラフラと千鳥足で前に進むことはできず、すぐにその場にへたり込んでしまった。
その様子を見ていたフォルは、ククッと小さく笑う。
「……これで残り一人になっちゃったみたいだね」
デクレは若干の恐れを混じえた、驚きの表情でフォルを見ていた。
「恐れ知らずですね、おにーさん……もしナイフが食い込んで頸動脈を切っていたら死んでたかもしれないのに」
「恐れ知らず?」
違うよ、と嘲笑。
心配そうに戦いを見つめるシャーラを横目に、フォルは貼り付けたような笑顔で言った。
「死ぬわけないって思った。ただそれだけさ」
「大した自信ですね」
デクレの声がかすかに震える。
「用心棒は必要ないと言っていたのもわかる気がします」
平然とした態度を保とうとするデクレだったが、クレスを圧倒したフォルにとって、それが何の意味も為さないということは、デクレ自身が強く理解していた。
彼の言葉に、ふーん、と適当な相槌を打つフォル。
「……もう終わりにしよう」
もう十分だ、と言わんばかりに彼は言いのけた。
彼はほんのわずかに帽子の鍔を下げると、少し腰を落とし、構えをとる。
「そうしてくださると助かりま――――」
デクレが言い終わるのを待たずに、フォルはデクレの目の前に迫っていた。
「な……!?」
「でもその前に、悪い子供には躾が必要みたいだね」
フォルの黒い笑みが、デクレを真正面に捉えていた。
避けられない。
デクレは思わず目を瞑った。
そして、



「――――うひゃははははははっ、ひぃっ、あはははははは!!!!」
気付くと、フォルはデクレへのくすぐり攻撃を開始していた。
脇を重点においたくすぐりが、デクレの全身から力を奪う。
「こちょこちょこちょ~」
「うははっ、やめ、やめてくださっ、うひ、ふざけひはははっ!!!」
「えっ、えぇえ……」
シャーラとクレスの女性二人は、今までの緊迫したムードとはかけ離れた、そのあまりにも珍妙な事態にしばらく呆気に取られていた。
「……降参する?」
「だ、誰がっ、うはは、ひひっ、ふにゃははははは!」
デクレが頑なに降参しようとしないとわかったフォルが、くすぐりの勢いをさらに強める。
「ほらほらほら」
「にゃああああああああ~!!」
フォルにされるがままの無様な醜態を晒すデクレ。
最初こそ抵抗の姿勢を見せていたデクレだったが、とうとう耐えきれずに根負けしてしまう。
「うにゃはははははごめんなさい降参です降参します!!!」
デクレが半分笑わされながら負けを認めるや否や、すぐに地獄のくすぐりから解放される。
「――――っ、ふぅ、なんてことをするんですか!」
ようやくデクレが元の調子に戻る。
「はい、おしまい」
フォルが軽く手を叩きながら言った。
「…………どうやら、¨ようじんぼう¨は必要ないみたいですね、おにーさん」
降参です、とデクレがふっとため息をつく。
「おにーさん強いね!」
クレスもそれに続いて言う。
先程受けたダメージはもう回復したようで、彼女はとてとてとデクレのもとへ駆け寄っていた。
そして、二人は何やらひそひそと三、二言ほど言葉を交わすと、互いに小さく笑う。
「強いおにーさんがいるなら、また新しい雇い主を探さなきゃね、デクレ」
「そうだね、クレス」
双子は互いに頷いた。
すると何かを示し合わすかのように二人がアイコンタクトをとった。
揃った動きでフォル達の方へ向き直り、最初にデクレがぺこりとお辞儀をしながら言った。
「では、ぼくたちはこれで。お騒がせしました」
「じゃあね~ばいば~い!」
クレスもそれに続くように一礼し、手を振りながらデクレと共にその場から立ち去っていった。
「またどこかでお会いしましょう!」
双子に負けじとシャーラも手を振り返し、彼らの後ろ姿を見送る。

やがて双子の姿が人混みに消えていくと、彼女はゆっくりと手を降ろした。
「変わった双子さんでしたね……」
「まさかさっそくあんなアクの強い人間に出会うとはね」

フォルは双子の消えた、薄暗い路地奥の人混みを横目にしつつ、あの双子の片割れが言っていた言葉を思い返していた。
「この街は物騒、か」
常々シャーラに危害が及ばないよう気を付けておくか、と半ば軽い気持ちで決める。

――ふと、フォルはシャーラが自分に何か言いたげな視線を注いでいることに気付いた。
「どうしたの?」
フォルはシャーラの方向へ振り向くと、彼女は一瞬だけ悲しげな表情を見せた。
そして振り絞るように言う。
「あまり、先程のような無茶はしないでくださいね」
フォルは一瞬何のことかわからないといった顔をするが、すぐに先の双子との戦闘のことを思い出す。
掻っ切るように首元に押さえ付けられたナイフ。
確かにあの状況では、無茶をしたと言われても仕方がなかった。
「……あぁ、気を付けるよ。ありがとう」
フォルはいつもの作り笑顔で応対するが、シャーラは依然として心配そうに彼の顔を見つめている。
「大丈夫。さっきも言ったけど、あれは死なないと思ったからやっただけだよ。……死ぬような真似はしないつもりだから」
「そうですか……それなら、いいのですが……」
そんな顔をしなくても、きっと自分が死ぬことなんてないのに、とフォルは思った。
わからない。
何故シャーラは、他人の不幸をまるで自分の不幸として感じ、悲しむことができるのか。
何故、そんな悲しい目で自分を見るのか。
フォルはただ不思議そうに彼女を見つめるばかりだった。

「――――ところで、あの、そろそろお昼ご飯に……」
再びシャーラの腹の虫が鳴る。
「うっ、すいません……さっきからお腹が空いていて……」
「えぇ、でもこの辺に料理屋は……げっ」
瞬間的に、フォルが目の前にそびえる「料理ハウス」から目を反らす。
至って平静であろうとするフォルだが、彼の身体からは、そこは違う、別の所にすべきだ、というオーラが滲み出ていた。
だが彼の思惑とは裏腹に、シャーラの視線だけはしっかりと「料理ハウス」へ向いている。
彼女は、間違いなくこの胡散臭い店に入るつもりだ。
「………………」
「………………」
数秒間互いに黙りこむ。
すると突然、シャーラがにんまりとした表情を浮かべた。

次の瞬間、彼女は迷うことなく「料理ハウス」へと入っていく。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って」
唐突な事態にフォルが慌てて止めようとするが、止める間も無くシャーラは入店してしまっていた。

「…………入るのか……」
昼も外食なんかせずに自分が作るべきだった、という小さな後悔をしつつ、彼は大きなため息をつくと、おずおずとした様子で「料理ハウス」に入っていくのだった。

三章 旅人②

日の光を遮る鉛色の曇り空の下に、無表情な高層物達が規則正しく並んでいた。
薄黒いアスファルトの道路には、魔力を原動力とした乗り物達が行き交い、その脇の歩道には、人々がひしめき合いながら歩いている。
この町――――ルクリフィアは、ここ数年での急速な魔法技術の発達、新たな管理体制、さらには建造物をはじめとした景観に関わる全てを一大リニューアルしたことにより、現在のような大都市へと変化を遂げたのである。

「とても賑やかな所ですね」
シャーラ・I・ディザスターは、忙しなく往来する人々の姿を珍しそうに眺めていた。
「大都会だからね」
その隣では、フォル・A・バイムラートが慣れた様子で佇んでいた。
現在彼らがいるのは飛空艇を停めた港からすぐ傍の、街の入り口のような場所であったのだが、そこは既に人々が溢れかえっており、街の入り口等とは微塵も感じさせないほどであった。
だがそれは、活気が良いながらも落ち着いた雰囲気であった「厄災の国」とは似て非なる、どこか機械的な雰囲気。
目まぐるしく変化し続け、それでいて無機的な印象を与える。
シャーラが興味を惹いているのも、そういった雰囲気の違いからであった。
「な、なんだか目の前がぐるぐるしてきました……」
が、彼女は早くも都会特有のヒートアイランド現象にあてられ、目眩にも似た症状を覚えていた。
「前みたいに街中で吐いちゃダメだよ」
フォルが意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「ちょっと、思い出させないでくださいっ!」
シャーラは口を尖らせる。
だがフォルは気にしないどころか、むしろそれすらも楽しんでいる様子で、終いにはシャーラの怒りで膨らんだ頬をぷにぷにと突っつき始める有り様であった。
「……で、お外の空気はどうですか、お姫様」
まるで人形遊びでもするように、ぐにぐにと一国の姫を弄り倒している男が言う。
「とても開放的な気分ですよ。……フォル君さえ意地悪してこなければ」
シャーラは仏頂面になりながら、そっとフォルの手を自らの頬から引き離す。
「というよりわたし言ったじゃありませんか!わたしのことは¨お姫様¨でなく、ちゃんとした名前で呼んで欲しいと!」
厄災の国での一件以来、シャーラはフォルに、自らの事を名前呼びするように頼んでいた。
彼女が言っていたそれは、人前で堂々と「お姫様」と呼ばれるのは少々恥ずかしいものがある、といった意味合いの言葉であったはずだが、
「大丈夫だよ、仮にも一国のお姫様なんだから何も恥ずかしいことなんてないって」
フォルが軽めのノリで返すも、それが不満だったのか、シャーラが瞬時に彼に詰め寄っていた。
「それだけじゃありませんっ!」
「ええっ」
シャーラの剣幕に、フォルは一瞬たじろいでしまう。
「えっと、その」
しかしその勢いはすぐに弱まり、彼女は躊躇うような様子で言葉を詰まらせる。
やがて、もはや後に退けないと思ったのか、やや頬を赤らませながら彼女が言う。
「――――恥ずかしいのはありますけど……それよりも、わたしはフォル君には王族としてではなく、¨普通の友達¨として接していただきたいんです」
普通の友達。すなわち自分と対等な間柄というのは、彼女にとって非常に貴重なものである。
その生来の資質から、今までの人生を隔離されるかのように城の中で過ごしていたシャーラにとって、フォルは初めて対等に、そして目的を共に出来るような存在だった。
それ故か、彼女はやたらと¨友達である¨ということに固着していた。
それは彼女自身の拘りなのかもしれないし、或いは今までの寂しさの裏返しであるかもしれない。
彼女は後に弱々しく「ダメですか……?」と気色を伺うような面持ちで言う。
フォルは困惑を交えた表情ながら、「わ、わかったよ」と吃り、勢いのまま頷いてしまった。
「……!ありがとうございます」
それを聞いたシャーラの表情がぱっと明るくなる。
瞳の中の星模様が一層輝きを増し、少女の純粋な笑顔が溢れた。
「あっ、す、すいません!」
だが自分で言った事がどうやら後々から恥ずかしくなってしまったのか、彼女はすぐに顔を伏せてしまう。
彼女の耳先はほんのりと赤く染まっていた。
「は、は早く街の中へ入りましょう!」
誤魔化すようにそう言ったシャーラは、フォルの手をやや強めに引くと、すたすたと街の中へ入っていくのだった。


赤や緑といった点滅を繰り返す機械。道路で目まぐるしく交差する魔法動力の乗り物達。前が見えているのかすら危うい、小型の端末を片手に歩く男性。ハンバーガーやクレープといった食べ物を頬張りながら談笑する若い女性達。
街の入り口にもそういったものはあったが、街の内部はさらに顕著であった。
シャーラは、淡々と目に入ってくる景色を食い入り気味に見ていた。
「しばらく見てみましたが……本当にここはわたしの国とは違うんですね」
機能的に舗装された歩道を歩きながらシャーラが呟く。
「君のいた国みたいに王政をしている所なんて、今では数えるくらいしかないからね」
「えっ、そうなんですか!?」
フォルが何ともない様子で告げると、シャーラが意外そうな声を出す。
「えっと、……昔にあった大きな魔法戦争については知ってるよね」
やや困惑した様子で口を開くフォル。
「はい、それについての文献は何度も読みました」
魔力という粒子が発見された当時、革新的な技術の発達の裏では、有能な魔術師のみを集めた「魔術兵団」が、従来の軍隊を淘汰しつつあった。
兵は魔法を用いるため装備は最小限に留めることができ、尚且つ自然をも支配しかねない魔法という技能は、それだけで戦況を大きく覆す。
それ故、この魔術兵団は比較的力の弱い国ほど積極的に組織されることとなり、次第に魔法の持つ力に溺れるようになった彼らは、とうとう他国への侵攻をも目論むようになっていく。
やがて魔力を引き金とした小さな国同士の啀み合いは、止める者もいないまま大きな戦争へと変貌していった。
世界全土をも巻き込んだその戦争は、およそ百年余りにも渡って長引くことになる。
抗争は長引けば長引くほど激化し、それだけ国は滅亡し、それだけ争いの頻度が増え、それだけ人が死んだ。
だが人類全てを滅ぼしかねなかったその戦争は、いつしか勝者も敗者もわからないまま静かに鎮静化していくこととなる。
結果として、戦争によってできた国同士の溝のみが浮き彫りにされることとなり、元は一つに統合されていたはずの世界は分断、それぞれが独自の文化を持った国々に分かれ、かつて平和そのものと呼ばれていた時代は脆くも崩れ去った。
現在では、戦前の名残はかつての統合されていた時代に用いられていた共通の言語のみとなった。
だがそれは、多くの爪痕を残した争いであるとともに、皮肉にも現在に残る多様な文化を生み出すきっかけでもあったのだ。

戦争が消えた今は平和だ。それも恐ろしいほどに。

「悲しいお話です。最初に魔法を発見された方はどう思ったのでしょう。だって、その人は皆さんの暮らしをより良くするために研究をされていたはずなのに……」
シャーラは憂いがかった顔で少し俯いた。
「誰かの為に尽くした事が、結果的に自分を追い詰めることになるなんて酷い話だよ」
この世界に魔法という概念が誕生したのは、とある研究者が魔力という新たな粒子の存在を発見したからである。
だがその人物は、先の戦争の発端として歴史からその名を消された。
戦争の原因は何であれ、元は魔法の一般化から起こったものだ。
故に、争いによって生まれた人々のやり場のない怒りは、不幸にもその研究者に向くことになってしまったのだ。
今でこそその人物を評価する声が多く上がってはいるが、現在に至るまでその名前を知る者はおろか、その名前を記した記述すら存在が確認されていない。
わかっているのは、かの魔法戦争の全ての罪を背負わされ、歴史の闇に消えた一人の研究者がいた、ということのみである。
¨後の祭¨とはこのことだな、とフォルは嘲た。
「…………」
ふと、彼はシャーラの顔を覗いた。
「どうかしましたか?」
「いや、別に」
すぐに目を逸らすフォル。
「会ったこともどんな人なのかもわからないその研究者にそこまで感情移入できるなんて、やっぱり変わってるよ、シャーラちゃん」
「えっ?」
「……別に深い意味はないよ」
フォルは素っ気ない態度で答えた。
彼には、シャーラ・I・ディザスターという人間の事がますますわからなくなっていた。
まるで善と美だけの世界に住まう、童話の中のヒロインが現れ出でたようにすら思えてくる。
実際、彼女自身もこの世界が清く正しく美しいものであると信じているのだろう。
フォルは、自分と彼女では視えている世界が根本的に違うのだと、改めて痛感させられていた。
いつしか彼は、そんな彼女を羨ましく思い始めていた。
だがその反面、嫉妬や嫌悪にも似た感情が自らの内で渦巻いていることを、彼はうっすらと理解していた。
(本当、可笑しいくらいに変わり者だよ、君は)
フォルは心の中で呟くと、そっと帽子の鍔を下げた。
シャーラという存在を、その光を、その善と美を避けるようにして。

三章 旅人①

一機の黒い飛空艇が、上空を飛んでいた。
竜の姿を模したそれは、安定した軌道を描きながら雲の隙間を滑るように移動している。
乗っているのはわずか二人。フォル・A・バイムラートという少年と、シャーラ・I・ディザスターという少女のみである。
彼らは旅人だった。
様々な国や町を回り、そして様々な人々との出会い別れを繰り返して生きる、所謂自由人のような者達だ。
もっとも、シャーラにとっては今回が初めての旅出ではあるが。


薄暗い紫色の空に、うっすらとオレンジの光が射し込んできた頃。
シャーラ・I・ディザスターは、飛空艇内に設けられた自室のベッドで、すやすやと心地良さそうな寝息をたてていた。
この無防備にも涎をたらしながら眠る少女こそ、かの「厄災の国」と呼ばれる王国の姫君である。
年齢は十七歳。清楚で美しい容姿を持ち、その銀色の髪は朝日を浴びてキラキラと耀いていた。
しばらくすると、彼女が眠る部屋の戸が音を立てずにゆっくりと開く。
そこから中へ入ってきたのは、少し長めの黒髪に中性的な顔立ちをした、シャーラと同年齢ほどの少年。
彼こそ、この飛空艇の所有者でありもう一人の乗組員である、フォル・A・バイムラートだった。
躊躇いもなく女の子の部屋へと侵入した彼は、ファンシーに彩られた部屋中を見渡した後、王族らしい高潔なベッドで眠るシャーラの姿を見つける。
「朝だよ~シャーラちゃ~ん」
彼はベッドの傍らに座ると、シャーラの体をやさしめに揺すりながら呼び掛けた。
しかし彼女が起きる気配はなく、フォルに幸せそうな寝顔を見せるのみだった。
なんとなく起こすのが申し訳ない雰囲気である。
すると、フォルは何かを思い付いた様子でククッと腹黒い笑みを浮かべる。
彼はクスクスと含み笑いをしつつ、そろりそろりとシャーラの寝顔から離れ、ベッドの端、すなわち足がある所へと息を殺して移動する。
白いシーツを捲ってすぐにシャーラの足裏があることを確認したフォルは、そのまま彼女の足裏を指先でこちょこちょとくすぐり始めた。
すぐに「んっ」と小さな声が聞こえたかと思うと、やがてそれは「ふにゃはははははは」とヘンテコな笑い声へと変わっていった。
駄々をこねる子供のようにじたばたと手足を動かし始めた頃には、シャーラは既に現実に連れ戻されていた。
「ふひゃっ、は、……ひょえっ、フォル君!?」
「おはよう」
目が覚めたシャーラの視界に黒い笑いを浮かべるフォルが真っ先に目に入る。
彼女は一瞬驚きと寝起きによって思考が遅れてしまったが、すぐにフォルが自分をくすぐって起こしたのだと理解した。
「お、おはようございます……」
寝起きのせいか怒ることもできずに普段通りの挨拶をしてしまうシャーラ。
だが、そんな彼女の部屋に躊躇いもなく侵入し、尚且つ彼女の足裏を躊躇いもなくくすぐった犯人は、悪びれもせずにただただ爽やかに笑っていた。
「……って、まだこんな時間じゃないですか!」
ベッドから上体をもそもそと起こしたシャーラは、時計の指針が示す時間を見て愕然とする。
「いやぁごめんごめん、早急に知らせた方がいいかと思って」
どういうことです?とシャーラが訊ねると、フォルは窓に向かってちょんちょんと指を指した。
シャーラは寝起きでボサボサの髪のまま、指し示された通り窓を覗く。
「――町!」
彼女が目の当たりにしたのは、数多のビルが建ち並ぶ町の姿であった。
「ルクリフィア。そんな名前の町だってさ」
「ルクリフィア……」
町の名を復唱しながら感嘆の声を洩らすシャーラ。
「ほら、初めて会って旅の話をしたときに¨ビルが見たい¨って言ってたからさ」
「!……覚えててくれたんですね!」
シャーラは目を輝かせながら、ビルを実際に見れたことの喜びか、フォルが自分の言ったことを覚えていてくれた喜びか、うるうると感激の涙を浮かべていた。
心なしかフォルには彼女の瞳の星模様が一段と煌めいているように見えた。
「さ、もうすぐで到着だし、いつもより早めだけど朝食にしよう。すぐに用意するね」
フォルはそう言うと、台本通りに演じる役者のように変に無駄のない動きで部屋を後にする。
シャーラだけが残された部屋。
彼女は寝起きのぼんやりとした頭のまま、フォルと旅に出た経緯を思い出していた。
(一緒に旅に……ですか)
半ば強引にではあるが、初めて自分の故郷から旅立つことに成功したのだ、と彼女は嬉しさから小さくほほえむ。
この町でどんな出会いが待っているのかと胸に期待を膨らませつつ、彼女は朝食の準備を待つのだった。



「ごちそうさまでした、美味しかったです」
満足気に朝食を平らげたシャーラを見て、フォルは、お口に合ったようでなによりだよ、と言った。
プロの腕前には到底及ばないものの、今まで自炊をしてきた甲斐があってか、フォル自身料理を他人に振る舞うことには何ら躊躇いはなかった。
しかしながら、今彼の目の前にいるこの少女は紛うことなき王族である。
当然、裕福な暮らし、及び豪勢な食事を振る舞われていたはずの相手に、庶民の食事が口に合うはずがないものと彼は決めつけていた。
……が、それも杞憂だったようで、シャーラにとっては王族の食事も庶民の食事も関係がなかったようである。
朝食を済ませたフォル達は、町に降り立つための準備を始めた。
準備が整った頃には、目的地であるルクリフィアが目と鼻の先に迫っていた。
フォルが面倒くさそうに入国手続きを済ますと、指定された飛空艇用の港に飛空艇を停める。
「ビルというものは近くで見るととても迫力があります。なんていうか、こう……巨大な石柱がいくつもそびえ立っているような」
自分の思い付く精一杯の例えを用いたシャーラだが、いまいちフォルには伝わらなかったようで、ビルでそんなに喜ぶ人を見るのは初めてだよ、と流された。
(本当にあの城の外の世界を知らなかったんだな)
フォルは、都会の放つ異様な圧力に圧倒されているシャーラを眺めながら、そんなことを思っていた。
外の世界を知らなかったからこそ、彼女の目に入る全てが新鮮で、輝いて見えているのだ。
彼には少しだけ、そんなシャーラが羨ましく見えていた。
「何だか心が踊ってきました……早く行きましょう、フォル君!」
シャーラは、高そうな白のブラウスとフリルの付いた深い青のスカートに身を包み、飛空艇の窓から見える景色を一望していた。
到底旅をする者とは思えない服装だが、これが彼女のなりの¨旅の衣装¨なのである。
「あぁ、行く前にシャーラちゃん、二つほど約束して欲しいことがある」
「約束、ですか?」
「一つは、なるべくはぐれないように。お姫様に何かあったら大問題だからね」
フォルは便宜上シャーラを預かっている立場になるため、もし彼女に何かあれば責任を問われるのは他でもない、フォル自身なのだ。
「それともう一つ、こっちの方が重要かな」
フォルの声のトーンが下がる。
「俺があの姿――ドラゴンに変身出来るってことは誰にも言わないで欲しいんだ」
「…………?どうしてですか?」
意外そうに首を傾げるシャーラを見ると、フォルはぽんと彼女の頭に手を置いた。
口元は笑っていたが、全体の表情はいつもの帽子に隠れて見えない。
「……深く考えなくていいよ、守ってくれればそれで」
もし守れなかったら、とフォルは付け足そうとしたが、すぐに口を閉じた。
「ごめんね、それじゃあ行こうか」
彼は茶色のトレンチコートを着ると、逃げるようにして先に飛空艇を降りた。
「ま、待ってください!」
シャーラが慌ててフォルを追いかける。
飛空艇から降りた時点では既に、シャーラとフォルの距離は十数メートルほど離れていた。
「もう!はぐれるなと言ったのはそっちじゃないですか~!!」


かくして、仲間とも他人とも言い切れない奇妙な関係の二人が、ルクリフィアの町へと降り立ったのだった。

三章 プロローグ

とある町の一角。
町、といっても建物は所々が風化し、標識は折れ曲がって的外れな方向を示す。信号はただ黒い丸が三つ並んだだけのオブジェへと変貌を遂げ、辺りには誰が捨てたかわからないようなゴミが散乱する、いわゆる廃墟と呼ばれるような場所である。
そこに十代くらいの子供の集団が十数名ほど、二つの軍勢に分かれるように対峙していた。
周囲に大人の気配はない。それどころか、人間の気配ですら感じられない。
――彼らは不良だった。
生きる場所を失い、ただ今日だけを生き抜くために這いつくばる野良犬同然の存在であった。
「誰に喧嘩売ってると思ってんだテメェら!ここがオレサマの縄張りだとわかって来てんなら大した度胸だぜ!」
ドスの利いた声で、一人の少年が怒鳴る。
ガッチリとした体つきの、耳にピアスを付けた十代後半の少年だった。
「お前らが縄張りなんか張ってるせいで他の奴が迷惑してんだよ!とっとと出てけ!!」
対するは、十代半ばのニット帽を被った少年だった。
身長は160もない小柄な少年であったが、雷のように鋭く尖った金髪の下からは、さながら猛犬の如く鋭い眼をぎらつかせていた。
ピアスの少年とニット帽の少年。
この二人がぶつかったところで、彼らの体格差、年齢差を見れば結果は歴然だろう。
例えるなら大型犬と小型犬の喧嘩というべきか。
当然ピアスの少年は、自分が馬鹿にされているのだろうと怒りを露にする。
「ケッ、チビが粋がってんじゃねぇや!」
おもむろに、彼は近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げる。
それを合図に、背後に控えていた手下とおぼしき不良達と共に、一気にニット帽の少年らの集団へと襲いかかった。
砂利を蹴り飛ばす無数の足音と不良達の怒号が、一斉に敵勢力へと突進していく。
もし、誰かがこの状況を目撃していたとするならば、間違いなく不良同士の抗争が勃発すると予想したであろう。
だが、ニット帽側の少年達はそれを迎え撃つどころか、ただ動かずに平然としているのみだった。

――リーダー格であるニット帽の少年を除いて。

彼はただ一人、指をポキポキと鳴らして先頭準備に入っていた。
不審に思ったピアスの少年は一瞬攻撃を躊躇う。
「ッ、ざけんなァ!」
しかし、それを挑発か何かだと感じ取ったのか、すぐさま持っていた鉄パイプを振り下ろした。
鉄パイプは不格好な軌道を描いてニット帽の少年目掛けて降り掛かる。
至近距離から放たれたそれは、もはや避けようとしたところで避けられるものではない。
そのままニット帽の少年の脳天をかち割ってしまうかに思われた。
しかし、
「ゴブッ!?」
刹那、鉄パイプはものすごい力によって弾き返され、同時にピアスの少年の顔面へと直撃した。
「ぎゃあああああああッ!」
鼻がひしゃげるほどの激痛に悶えているのも束の間、今度はパンチを頬に一発。
間髪入れずに腹にもう一発を食らった。
同時に「バチッ」と何かが弾けるような音が聞こえたかと思うと、数秒ほど動きを止めていたピアスの少年が、頭から地面へと崩れ落ちる。
しばらくびくびくと痙攣を起こしていたが、やがて気絶した。
「…………もう終わりか?」
ぱっぱと手を叩きながら、ニット帽の少年は残りの手下の不良達を睨みつける。
すると、先程まで威勢のよかった不良達の顔がみるみるうちに青ざめていった。
それもそのはず、このニット帽の少年は鉄パイプで殴りつけられたのをいとも簡単に跳ね返し、尚且つ少ない手数でピアスの少年を失神させたのだ。
残った不良達は、各々が引きつらせた表情のまま情けない声を漏らす。
その内の一人が素頓狂な声を上げながら逃げ出すと、それに続くように残りの不良達も一目散に逃げ出していった。


「いや~さすがっス、ライトのアニキ!」
敵対勢力が去ったところで、ニット帽の少年の仲間内の一人が言う。
「今回もあんまりデケェ喧嘩にならなくてよかったな」
ニット帽の少年――「ライト」と呼ばれた少年は、安堵の様子で答えた。
「……ってアニキアニキ!コイツはどうすんスか!?」
するとまた仲間内の一人が、地面に倒れたまま伸びているピアスの少年を指差して言った。
それを引き金に、その他の仲間もざわつき始める。
「ほっとけほっとけ。自業自得だよ」
「えー……このまま放置ってのも有り得ないっしょ」
「別に死にゃしないって」
「まぁそうだけどさぁ……」
「うわっタトゥー入れてるよコイツ」
「マジか、いかつ!」
「げぇっ、お、おれだったらビビっちまうかも……」
「あ、あたしも~」
しばらく言い合いが続いていたが、ライトはそれには目もくれず、すたすたと気絶しているピアスの少年のもとへと歩み寄った。
「お~い、生きてるか~?」
とりあえず声をかけてみる。
返事はない。
「お~い」
しゃがみこんで頬をぺしぺし叩いてみる。
返事はない。
「おいってば~」
ゆさゆさと体を揺する。
返事はない。
「…………」
ライトは倒れたピアスの少年の額に指をくっ付けた。
そして、
「おらよっと」
「アギャッ!」
ビリッ、という音がしたかと思うと、ピアスの少年がまるで電源が入った機械のように目を覚ました。
ライトが自らの身体から電撃を放ったのだ。
ピアスの少年は一瞬、自らが措かれている状況を理解できずに呆然としていた。
が、ライトの姿を確認すると、ようやく大体の事情を理解したように言う。
「あァ、何だよテメェ……これからリンチでもするってか?」
周囲を見回しても、既に味方だった不良達はいない。
ここで抵抗しても無駄だと悟ったのだろう、ピアスの少年は諦めた様子であった。
「んなことしても意味ねーだろ……ま、その様子じゃあ大事には至らなかったみてーだな」
「ケッ、善人気取りかよ」
相変わらずガンを飛ばしているピアスの少年に物怖じすることなく、ライトは冗談混じりに言う。
ピアスの少年の悪態に、ライトは「まっ、そんなとこだな」と素っ気ない様子で答えた。
「……気に食わねェヤツだ」
口ではそう言いながらも、敵意の感じられないライトの様子に、内心ピアスの少年はほっとしていたのだった。



一通りのいざこざが終わり、ピアスの少年はまた仲間のもとへと帰っていった。
曰く、「この場所からは手を引く」とのことで、取り敢えずの心配はなくなった。
今回のことで懲りたのだろう。
そうでなくても、ライトとの圧倒的な実力差に怖じ気づいた、といったところだろうか。
「だぁぁ~疲れたぁ~」
「本当甘々っスねアニキは……知らねぇっスよ、これからどうなっても」
「ノイ……怖いこと言うなよ」
「ま、あながち間違いじゃないかもね」
「おいチトセまで……!」
自分を弄りたおす仲間二人に噛みつきながら、ライトは仲間達と共に自らの住処への帰路についていた。


ふと、ライトは空を見上げた。
牢屋の格子のように連なるビル群の隙間を、透き通るような青色が埋める。
ぽっかりと空いたその青空に、一機の飛空艇がビルの遥か上空を横切っていく。
彼の目には、それが自由に空を翔んでいく鳥のように見えた。


――――ライト・E・シャープ。

不良達が今日を生きるこの町で、ただ一匹、未だ見ぬ明日を見続けようとする野良犬の名だった。

零章 ③

この世界に¨魔法¨、¨異能力¨といった概念が登場してから数年が経つ。
私が発見した魔力粒子は、無限の可能性を秘めた究極のエネルギー源だ。
決して消えることはなく、永久に循環し続ける。
これを先駆けに世界はどんどん発展し、世界はより良く変わっていく――


――はずだった。

現実は違ったのだ。
魔力発見を皮切りに、各国で勃発する内乱。他国への侵略行為。
¨魔法¨という新たな力を手に入れた人類は、それまで平和を通してきたこの世界に、数々の争いの火種を呼び込むこととなった。
魔術師の軍隊を結成し、他国へ攻め入る国、最新鋭の魔法兵器を争いに用いる国、異能力者を迫害、奴隷のように扱い出す国……

世界は、私の理想とは遠くかけ離れたものへと変貌していく。
保たれていたはずの¨平和¨は、いとも簡単に崩れ去ったのだ。

甘かった。
人間の奥底に潜む野心や欲望を考えられなかった私が悪かったのだ。
結果として今では私は、「戦争の原因を生み出した者」として忌み嫌われることとなっていた。


人々の信用は失った。

居場所も、失ってしまった。

だがしかし、まだ私は全てを失ったわけではない。

可能性があるとするならば…………


私は再び、魔力の応用性についての研究を始めることにした。
今度は争いなど生むことのない、純粋に人の為になる使い道を探すために。

キャラ説明②と何か

はい。
ということで二章も無事完結しましたね。


途中途中で微妙に下書きと内容を変更していたがため更新ペースが遅くなってしまっていたことを深く謝罪します。


さて、今回の話はノラムとピアニがメインでした。
内容は彼らがどのようなキャラかという説明も兼ねて一章の補足といった形になっています。
一章から所々に伏線を張っておりますが、正直設定の変更も色々あって回収しきれるかどうか……。
彼らとフォルの関係も気になるところですね。

新キャラも出ましたね。ブルーアイズとリニア。
彼らはリア友のG君からお借りしています。
風と電気かっこいいですよね……僕も能力だったらあれくらい強そうなのが欲しいです。
あ、あとG君もブルーアイズを主人公とした話を書いているのでもし見つけられたらよろしくお願いします。(ダイレクトマーケティング)


僕も一章の頃よりは大分ましな文章になってきたと思いますが……いやまだまだ努力の余地あり、ですね。頑張ります。


そして次回は再びフォルとシャーラの話に戻ります。
説明回からようやく話が動き出します、多分。
旅立った二人……新しい町……新しい出会い……そんなことを予感させる爽やかで死人が出ない話にしたいですね(棒)
新しい仲間なんかできちゃったりして。ニット帽被って電気バリバリ出すやつとか戦力になりそうですよね。

というわけで何卒よろしくお願いします!




~ここからキャラ説明~

f:id:sometime1209:20150904003443j:plain

ノラム=フラット
18歳 男
一人称:僕 二人称:お前/てめー
所属:国際連合警察部隊

主人公の一人。
常に眠そうな様子で目付きの悪い長身の少年。
真っ白な髪と鋭く光る黄金色の瞳が特徴。
語尾に「~っす」と付ける話し方をする。
乱暴な言葉遣いや粗暴なふるまいから、周囲からは畏怖されているが、正義感は強い。
しかしサボり癖があり、暇さえあれば仕事そっちのけで寝ている。
ピアニとは昔からの付き合いであり、いわば腐れ縁。
そのためピアニには家族のように接するが、これといった恋愛感情はない。
また孤児であり、ノラムという名は彼を拾った人物から名付けられている。
本名は不明。

異能力は「背後から駆り立てる者(リアー・ドライバー)」。ピアニ命名。
投げた物及び使用した飛び道具を任意の場所へ到達させることができる。いわゆるホーミング。
効果範囲はノラムの視界内でノラムが視認できるものに限る。
上記の能力から銃を使った戦闘を得意としている。

使用する武器は主に支給品の実弾タイプの魔銃。威力が高い反面、弾の軌道がブレやすいため命中率が低いのが特徴。
ノラムは前述の異能力で命中率が
低いという欠点を無くしている。
他にも魔力弾タイプの魔銃が存在しているが、敵を追尾する代わりに威力が低いという特徴がある。
通常の装備はこちらが基本であるが、ノラム自身には異能力の問題であまり意味がない。
どちらの魔銃も詳細デザインは未定。



f:id:sometime1209:20150904003729j:plain

ピアニ・D・アース
18歳 女
一人称:あたし 二人称:あんた/あなた
所属:国際連合警察部隊

ノラムサイドのヒロイン。
凛々しさを感じさせる整った容姿の黒髪緑眼の少女。
きっちりとした性格で、ノラムの身の周りの世話を初めとして、ノラムがサボった書類関係の仕事も代わりにこなしている。
ノラムとは腐れ縁のような関係で、ノラムを相棒として支えつつも、同時に仄かな恋心を抱いている。
そのため、周囲の人気があるにも関わらず、本人はノラム以外は見えていない。
戦闘に関しては異能力はおろか魔法も満足に使えないため、戦闘ではお荷物になってしまっているが、持ち前の観察眼でノラムをサポートしている。
Cカップ。


ブルーアイズ&リニア(ゲスト出演)
G君のキャラ。
ノラム達の先輩にあたる。通称風雷神コンビ。
実力はかなりのものであり、ノラムですら手も足も出ない。
ある事件を追っているらしい、謎の多いコンビ。


シャイン
20代後半 男
一人称:私 二人称:あなた/お前/貴様

魔法の国の騎士団長をしていた男。
フォルにボコられた後、隣国のハルクードで捕らえられていた。
その後無職になる。


フエラムネの男
年齢不詳 男
一人称:私 二人称:あなた
フエラムネを用いて魔法を使う男。
魔女の力を手に入れようとしたが失敗、挙げ句もう一度手に入れようとした結果ノラムに倒される。
結局本名は明かされなかった。




では今回はこの辺で。
次回もまたよろしくお願いします!

二章 エピローグ

いつもの部屋のソファーで、僕はナマケモノのようにぐったりと寝そべっていた。

あのブルーアイズとの一件から数日。
ピアニにはそのことについて何も話していない。
理由はいくつかあるが、ざっくり言って盗み聞きの内容が僕らに関わるものではなかったことと、なにより盗み聞きしたとバレたら怒られるのは必至だからである。
故に何も特筆すべき出来事はなく、普段通りだらだらと過ごす日常が続くのみであるのだ。

僕の視界には一杯にこの部屋の天井が写っている。
相変わらずピアニがデスクワークをしている傍らで、僕は自室にあるソファーでくつろいでいるのだ。
特に眠いわけではない。おそらくこのナマケモノ状態はある種の癖になっているのだろう。
ふあ~っと大きなあくびをしつつ、僕は今日の出来事を思い返していた。


――――やや少し前、僕らはようやく釈放されるというシャインを見送りがてら会いにいくことにしていたのだった。

「ああ、君達か…ご迷惑をおかけした」
人気のないもののえらく小綺麗な留置所の出入口。
罪が軽くなっていたおかげですぐに自由の身になった長身のツンツンヘアーの男――シャインは、僕とピアニの姿を見るやいなや申し訳なさそうに頭を下げた。
解放感からか、その表情は初めて見た時よりも柔らかくなっていたように思える。
「よかったですね、すぐに釈放されて」
ピアニが落ち着いた丁寧な口調で言う。
「……ああ、だが利用されていたとはいえ、実行してしまったのは他でもないこの私だ。責任はとらせてもらうつもりでいる」
「責任、っすか?」
シャインの眼光が鈍く光った。
「私は妻子と一緒に遠くの町へ移るつもりなのだ。騎士長をやめてな」
「えぇ!?」
「罪が消えるとは微塵も思わないが、これが今私ができる王への精一杯の贖罪だ」
落ち着いた口調だった。
今になって考えてみれば、そう話すこの男の眼差しは、僕らではないどこか別の、見えない何かへと向けられているかのように思える。
僕は釈然としなかった。この男の言うそれは、ただの自己満足にすぎないように思えたのだ。
本人も薄々そうは感じているのか、シャインは視線を少しだけ落としていた。
そうした後で、シャインはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「少しだけ思い出したんだ、あの事件のことを。"彼"のことをな」
「彼?」
「……私を倒した人物さ。もっとも、まだぼんやりとした記憶だが」
シャインの表情が曇る。
「"彼"は私にこう言ったよ。『力がありながら使い道を自分で決められない』、とね。誰かに使い道を委ね過ぎていたのだ。……その通りだった。私は自らのモノであるはずのこの力……その使い道を考えるのをいつからかやめていたんだ」
「だから、今度は自分で決める、と?」
「そうだ。それが私の今できる精一杯の正義だ」
正義。シャインはきっぱりとそう言ったが、直後その表情に影を落とし、
「――いつから変わってしまったのだろうな、私は。王は昔の優しい王のまま何も変わらないというのに」
自らを嘲るように息を吐いた。
「おっとすまない、忘れてくれ」
それきり、シャインはその話題について一切触れようとはしなかった。

「――ではな。機会があればまた会うかもしれないな」
それからしばらく他愛ない会話を繰り広げていたが、とうとうシャインはそれだけ言うと、そのまま帰ってしまった。

「…………」
僕とピアニだけが取り残された状態になる。
ピアニは、しばらくシャインが去っていく方向を見つめていた。
「どうしたんすか?」
こちらへ向き直ることなく、ピアニは確認するように言う。
「今回の任務、本当にこれでよかったのかな」
「どういうことっすか?」
僕はその質問の意図がわからず困惑する。
「大したことじゃないけど、もしかしたら王様の方は、シャインさんに戻ってきて欲しいって考えてるじゃないかなって……そんな気がしただけ」
「…………ふぅん」
ピアニは平静を装っていたが、僕にはどこかこの任務結果に対してもどかしく感じているように思えた。
まぁ、僕もそう思っているうちの一人なのだが。
少ししてから、ピアニがふぅっとため息をつく。
「まぁ、あたし達が気にしてもしょうがないわね。……ノラム、部屋に戻ろう?」
催促するように、ピアニが僕の袖を掴んだ。
きっと考える必要のないことを無理に考えるのは避けたいと思っているのだろう。
僕は何も言わずに頷いた。

部屋に戻ろうとする直前、ふと気まぐれで後ろへ振り返る。
当然そこにはもうシャインの姿はなく、ただがらんとした空間だけが残されているだけだった。


――思い返していくうちに、いつしかぼんやりと考え込んでいた。
正直言って、僕はあの時のシャインの選択が正しいものとは到底思えない。
かといって、何事もなかったかのようにホイホイ騎士長に返り咲くのもそれはそれで違うと思っている。
要するに、僕は何が最善か思いつかなかったのだ。

人は要所要所で最善の選択をしなければならない、とはよく言ったもので、
本当はその最善の選択など初めから存在していないようにも思える。
あるいは、妥協されたとりあえずの選択を、とりあえず選んでいるに過ぎない。

結局、僕は「過ぎた結果」に"間違っている"と言うことはできても、"何が違っていたのか"、"何が正しい選択なのか"は言うことができないのだ。
「大事な分岐点」での"正しい選択"ができないのである。
その点では、僕もシャインと変わらない、自分で選べない人間だったということだ。

でも僕にだって一つだけ曲げられないものがある。
ただひとつ。僕がピアニと約束したことだ。

「本物の正義」に、「本当に正しい選択ができる人間」になる、と。

そんな子供のような考えだけが、今まで僕を動かしていた。

この仕事をやり初めてほんの一年。
だがそんな短い期間であっても、多くの人間の本性を見る。
だからこそ嫌でも考えてしまう。悪人として裁かれていった者たちが、あるいはそんな彼らに人生を弄ばれてしまった者たちが何を思い、何が正しいと考えているのかを。
未だに僕は答えどころか手がかりでさえも見つけられていない。
蓋を開けてみればなんてことのない、自分一人では何もできないちっぽけな人間一匹のままだ。

……でも最近は、自分はちょっとだけ変わったと思うようになった。

ふと何か思うところあってピアニの方を見る。
早いことに、どうやら仕事が一段落したようだ。
「どうしたの?」
ピアニがこちらに気付く。
「えー……っと」
特に話題を用意していなかった僕は言葉に詰まってしまう。
「ま、毎日御苦労様って思って!」
誤魔化そうとした結果、突拍子もないことを口走ってしまった。
一応、僕が変われたと思ったのもこいつのおかげではあるので、本当に突拍子もないかどうかは曖昧なのだが。
「……誰かさんが自分の仕事をあたしに押し付けてるせいでしょ!」
しかし残念なことに、その言葉は逆にピアニの琴線に触れてしまったようである。
ド正論だ。言葉も出ない。
お、怒られる……。
「はい、すいません……」
「まったく、あんたはいつも――」
いつものように説教を食らうのかと思っていると、突然、手元の端末型魔具がブブッと震えた。
「どわっわっわわわ!」
突然のことにびっくりして変な声を出すも、すかさずそれを確認する。
予想通りそれは新たな任務の通告だった。
「……今日のところはこれで勘弁したげる」
どうやら説教は免れたようだ。
ピアニもまた、任務内容を確認していた。
送られてきた任務内容は次の通りである。
『ルクリフィアの街で相次ぐ殺害事件。
被害者はどれも狭い路地で殺害されており、且つ死体の外傷から狭い路地では通常の人間では不可能な方法で殺害されていることから、犯人は異能力者、もしくは近頃一部の情報網で噂となっている、魔力回路の違法な研究によって造られた改造人間『ACTION-00(通称:ACT)』である可能性が高い。
もしACTが実在するのであれば、それをデータとして今後さらに非人道的研究が進むことが懸念される。
任務内容はACTという存在の噂についての調査、違法研究団体の取締りである。
もしACTが実在した場合、世間の目に触れる前に速やかに破壊、回収することも任務内容に含まれる。
尚こちらからはここ数日の監視カメラ等の映像からACTと思わしき人物の画像を数枚添付しておく。
では、健闘を祈る。
国際連合警察部隊 』
ACT……変な名前だ。
しかも改造人間とは、世の研究者は一体何を考えているのだろう。
お堅い文章を目で追いながら、添付されていた画像を見る。
どうやら疑わしい人物が何名もいるらしく、一つ一つの画像に写っている人物はどれも別々の人物であった。
例えば筋骨隆々とした、いかにもな雰囲気漂う大男。葉巻を吸う、マフィア映画にいそうなサングラスの男。どう見ても戦う力のなさそうな、色白で不健康そうな少女。着物を着た女性と共にいる、全身包帯ぐるぐる巻きのミイラのような人物。
どれを見てもピンとこない。これでは情報がないのと一緒ではないだろうか。
しかし、いくらか画像を見ていくうちに最後の一枚で手が止まった。
「……え?」
それを見た僕は驚愕していた。
なぜならそこに写っていたのは、茶色い帽子とコートにやや長めの黒髪の少年。
その容姿は僕に、二年前の"あの人"のことを思い出させていたのだ。
「どうしたの?」
ピアニの声を無視して、自然と声が漏れる。
「フォル……A……バイムラート…………」
呪文を唱えるかのように、"あの人"の名前が口を継いで出てくる。
忘れもしないその名前――

そこに写っていた人物は、僕らのかつての恩人の姿に酷似していたのだった。